フクシマ・抵抗者たちの近現代史  平田良衛・岩本忠夫・半谷清寿・鈴木安蔵 書評|柴田 哲雄(彩流社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年6月23日 / 新聞掲載日:2018年6月22日(第3244号)

フクシマ・抵抗者たちの近現代史  平田良衛・岩本忠夫・半谷清寿・鈴木安蔵 書評
原発事故の問題を見据えて、被災地の「抵抗者」を掘り起こす

フクシマ・抵抗者たちの近現代史  平田良衛・岩本忠夫・半谷清寿・鈴木安蔵
著 者:柴田 哲雄
出版社:彩流社
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本書は、原発事故の被災地の出身であるという点を共通項とする四人の「抵抗者」について紹介している。

平田良衛(1901―76)は、共産党に入党して、プロレタリア科学研究所の創設に関与し、獄中では非転向を貫いた。しかし出獄後、党活動に対する自省を踏まえて、独自の農民運動の理念を提唱するに至り、戦後、その理念の実践のために、故郷の南相馬市小高区で自ら開拓農民となる道を選ぶ。

岩本忠夫は(1928―2011)は、双葉郡双葉町における社会党系の反原発運動のリーダーから福島県議となるものの、運動の行き詰まりから原発推進派に「転向」する。そして双葉町長になると、原発推進派の中でも、原発増設やプルサーマル計画の推進を唱える超積極派に属するようになり、慎重派の佐藤栄佐久・福島県知事との対立を深めていった。

半谷清寿(1858―1932)は、幕末に故郷の南相馬市小高区などで実施されていた「報徳仕法」に反発して、実業による故郷の復興を志し、養蚕・絹織物業を中心に様々な業種の企業経営に携わった。その後、冤罪事件に巻き込まれたのを契機に、双葉郡富岡町の原野の開拓に着手するようになり、大地に根差した警世家となって、故郷のみならず、東北、ひいては日本のあり方についても積極的に論じるようになる。

鈴木安蔵(1904―83)は、学連事件の検挙を経て、憲法学の研究を志すようになり、その知見に基づいて、ファシズム批判の論陣を張ったが、終戦直後には、民間の有志らによる新たな憲法草案の作成に加わって、主導的な役割を果たした。GHQが日本国憲法の原案を作成した際に、鈴木らの憲法草案を下敷きにしていたことから、今日、鈴木は日本国憲法の実質的な起草者と目されている。

さて、著者の柴田氏は原発事故当時、在外研究のためにニューヨークに滞在していた。中国の独裁体制に対する「抵抗者」、すなわちその実態がよく知られていなかった民主化・民族運動の亡命者について、実地に調査していたのである。氏は原発事故の一報を受けて「大きなショックを受けた」。そして被曝した若い女性たちの間で広がる「子どもを産めないかもしれない」という不安感と同様の不安感を、氏はかつて遺伝的理由から抱いていたこともあって、日本政府や東京電力に対して怒りを覚える。こうした怒りから、氏は専門の中国政治の研究を一時中断して、被災地における「抵抗者」を発掘することにした。氏によれば、被災地における「抵抗者」の思想と行動は、「私たちをエンパワーメントしてくれる源泉になると同時に、私たちを導いてくれる指針になる」というのである。奇しくも氏は日中の知られざる「抵抗者」について書物を著すことになった。

本書は、単に四人のライフヒストリーを再現するだけにとどまらない。「おわりにかえて」において、氏は原発事故後の問題を起点に、四人の「抵抗者」の思想と行動を改めて振り返ろうとしている。岩本については、「転向」前の原発問題に対する追及の姿勢から、すなわち低線量被曝の問題の提起などから、私たちは学ぶべきだとしており、開沼博氏らの所論を痛烈に批判している。

また岩本を除く三人の「抵抗者」については、彼らが今日まで生きていれば、原発や原発事故に対してどのように向き合ったかを、それぞれの思想のロジックを踏まえて推測している。たとえば半谷について、氏は次のように述べる。半谷は水力発電の時代に、電力が専ら首都圏に送られていたのを批判して、電力の「地産地消」を唱えた。仮に原発時代の到来まで存命であったならば、依然として電力が立地地域を素通りして首都圏に送られているのみならず、放射能汚染のリスクさえもが立地地域に押し付けられているのに異を唱えて、改めて電力の「地産地消」を唱えるのではないかと(もっとも氏は、半谷が時代錯誤的な政治思想のために、原発に対して黙認の態度をとることもあり得ると断っているが)。

最後に、評者はチベット研究者として、本書を一読した後、ダライ・ラマらの抵抗にも、改めて思いを馳せるのであった。チベットでも長年にわたって、核のゴミ捨て場が押し付けられ、癌が多発しても黙殺されてきたのである。
この記事の中でご紹介した本
フクシマ・抵抗者たちの近現代史  平田良衛・岩本忠夫・半谷清寿・鈴木安蔵/彩流社
フクシマ・抵抗者たちの近現代史  平田良衛・岩本忠夫・半谷清寿・鈴木安蔵
著 者:柴田 哲雄
出版社:彩流社
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