昭和ノスタルジー解体 ――「懐かしさ」はどう作られたのか 書評|高野 光平(晶文社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年6月23日 / 新聞掲載日:2018年6月22日(第3244号)

昭和ノスタルジー解体 ――「懐かしさ」はどう作られたのか 書評
著者自身の原点探しの産物 
七〇年代半ばを昭和ノスタルジーの始点に

昭和ノスタルジー解体 ――「懐かしさ」はどう作られたのか
著 者:高野 光平
出版社:晶文社
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二一世紀の東京を舞台にした藤子・F・不二雄のマンガ『21エモン』には「昭和村」というテーマパークが登場する。そこでは東京タワーや超高層ビル群、団地などといった昭和の街並みが再現されていた。『21エモン』が少年誌に連載されたのはいまから半世紀前。現実の二一世紀でも、映画『ALWAYS 三丁目の夕日』(二〇〇五年)のヒットなどを機に昭和ノスタルジーブームが起き、まさに「昭和村」のような施設も各地に現れたことを思えば、藤子の先見性に驚かされる。

もっとも、『ALWAYS~』の原作となる西岸良平のマンガ『三丁目の夕日』の連載が青年誌で始まったのは一九七四年で、『21エモン』から五年ほどしか経っていない。本書はこの『三丁目の夕日』の連載開始から『ALWAYS~』公開にいたる三〇年間を対象に、昭和ノスタルジーはいかに形成されたのか、その過程を多様な事例から検証していく。

本書が昭和ノスタルジーの始点に置くのは、七〇年代半ばにおける戦後生まれ世代のアイデンティティ探しだ。著者は、西岸良平が二〇代で描き始めた『三丁目の夕日』のほか、このころ古都を旅しながら日本の原風景にノスタルジーを見出した「アンノン族」の女性たちなど、若い感性による望郷や懐古のあり方の更新を「ニューノスタルジー」と名づける。

同時期にはまた、マンガやアニメ、特撮などを愛好する若者たちのコミュニティやネットワークが生まれた。「プレおたく」ともいうべき彼らは、徹底的な資料主義とデータベース志向を通じて、自分たちが昔から好きなものを面白がる態度――著者はこれを「キープオン」と呼ぶ――を確立する。他方、やはりこのころ渋谷に開店した文化屋雑貨店では懐かしい雰囲気の漂う雑貨が売られ、一〇代の客たちはそれらに世間の常識からはズレた「キッチュ」なセンスを見出した。

いずれの感覚も当時の若者が上の世代などに対して自分(たち)らしさを探し求めるなかで得たものだ。著者はこうした過去の文化へのさまざまな感覚が時代を追うごとに統合され、のちには『ALWAYS~』で描かれたような世代を超えて共有される昭和イメージを完成させたと説明する。なかでも一九八六年に起きたレトロブームは、あらゆる感性をひとつにまとめたという意味で大きなエポックとなった。

レトロブームからは『テレビ探偵団』という人気番組も生まれた。同番組では司会者の三宅裕司・山瀬まみ・泉麻人がそれぞれ「ノスタルジー」「アナクロ(キッチュ)」「キープオン」のスタンスを象徴していたとする著者の指摘は面白い。その後の章でも、九〇年代の「渋谷系」のミュージシャンやクリエイターについて、過去の音楽やデザインを引用・編集するその手法はのちのレトロポップテイストの基本的要素をつくったと評価するなど、斬新な見解が続々と飛び出す。

序文によれば、著者の高野氏(一九七二年生まれ)が昭和の文化に興味を抱く一つのきっかけは渋谷系であり、本書の研究も、自分がなぜあんなにレトロなものに夢中になったのか、あの感覚は何だったのか、その理由を突きとめたいという思いが動機となったという。先述のとおり昭和ノスタルジーの始点を七〇年代の若者のアイデンティティ探しに置いた本書は、著者自身の原点探しの産物でもあったのだ。

著者より四歳下の評者にもレトロブームは趣味嗜好などに大きな影響を与えている。中学生だった九〇年代初めには、作文で『ちびまる子ちゃん』『おもひでぽろぽろ』といったマンガやアニメを俎上にあげながらレトロブームについて論じた記憶がある。それだけに本書には「やられた!」と感服させられるとともに、多くの示唆を得た。

まもなく平成も終わる。著者が書くように、すでに完成された昭和のイメージが今後、更新されることはあるのだろうか。同時に、私たちの育った昭和後期から平成初期の文化を若い世代がどんな感性で受容していくのかも、気になるところである。
この記事の中でご紹介した本
昭和ノスタルジー解体 ――「懐かしさ」はどう作られたのか/晶文社
昭和ノスタルジー解体 ――「懐かしさ」はどう作られたのか
著 者:高野 光平
出版社:晶文社
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