少しだけ「政治」を考えよう!/若者が変える社会 書評|島村 輝(松柏社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年6月23日 / 新聞掲載日:2018年6月22日(第3244号)

多くの人に重要なヒントを 
社会問題を指摘し、解決を示す

少しだけ「政治」を考えよう!/若者が変える社会
著 者:島村 輝、小ケ谷 千穂、渡辺 信二
編 集:フェリス女学院大学シティズンシップ教育グループ
出版社:松柏社
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政治と若者が遠い」日本にわれわれはいる。フィリピン、韓国など近隣の国々と比べ、日本の若者の政治的な動きは目立たない。その一方、選挙権が18歳以上になり、大学生は全員有権者になっている。この本は、こうした状況に対し、フェリス女学院大学の学生に「社会変革を担う市民」として具体的に思考し行動するヒントを提供する「シティズンシップ教育」の記録となっている。

その内容は、日本国憲法のあり方、「人権問題としてのカルトそしてマインド・コントロール」、ワイマール共和国時代のドイツでの妊娠中絶禁止法と女性たち、フィリピンの学生たちによる「ピープル・パワーとスチューデント・パワー」、そして慰安婦問題、原爆問題、さらに「ベートーヴェンとショパン」と多岐に渡っている。憲法学、法学、心理学、歴史学、文学、社会学、音楽など「文字通りフェリス女学院大学のすべての学科から教員が参加した」というその多様さは確かに読み応えがある。

読んで建設的と感じるのは、社会的な問題を指摘すると同時に、その解決の方向を示していることだ。ぼくも感じることだが、深刻な社会問題を一生懸命説明しても、そこからの具体的な解決方法が示せないと、聴き手は「自分にできることはないのに、そんな事言われても…」とコンパッション・ファティーグ(同情疲れ)に陥ることがある。「少しだけ」でも現実にできることを示すことは重要だ。本書では、たとえば憲法改正国民投票について、一定の投票率に達しない場合は無効となる「最低投票率」が導入されていないために有権者の10数%しか賛成していない改正が行なわれる場合もありえること、さらに、国会に発議されてから国民投票まで「60日以降180日以内」しかなく、紛争などの「有事」にあって冷静な判断ができないまま憲法改正されることもありえるという問題点が示されている。それに対し、憲法改正に反対の場合、政党を積極的に支持していなくても、憲法改正に反対する政党の候補者に投票することが現実的な判断として提案されている(「私たちの私たちによる私たちのための政治」)。社会問題に注目しながら「大学生に何ができるか」のヒントを示すという点で、この講義シリーズは一貫している。受講した学生が言うように、「社会において、私たち若者ができることは少ない、と感じていましたが、毎週のように先人たちの成功や失敗の歴史を先生方から学ぶことができています。高校以前の社会の授業とは全く違った面白さであり、先生方の『伝えたい』という気持ちが強く感じられます」。

もちろん、不足していると感じる点もある。ぼくは全国各地の小中高校、大学で「野宿・貧困問題の授業」を続け、いくつかの団体と連携した「学校で教えない授業シリーズ」で、野宿と貧困、精神障害、不登校、セクシャルマイノリティの授業モデルを東京、大阪で行なった。その経験から言えば、一連の講義の中に、大学進学できない生活保護世帯のこどもたちなどの「貧困」問題、家畜やペットなどの「動物の解放」問題、歴史上ほとんど無視されてきた「女性作曲家」の問題もあった方がよかったと思う。しかし、この本は、大学に限らず学校で社会問題を扱う試みとして、多くの人に重要なヒントを与えるものになるはずだ。
この記事の中でご紹介した本
少しだけ「政治」を考えよう!/若者が変える社会/松柏社
少しだけ「政治」を考えよう!/若者が変える社会
著 者:島村 輝、小ケ谷 千穂、渡辺 信二
編 集:フェリス女学院大学シティズンシップ教育グループ
出版社:松柏社
以下のオンライン書店でご購入できます
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