エロ本黄金時代 書評|本橋 信宏(河出書房新社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年7月5日 / 新聞掲載日:2016年2月5日(第3126号)

エロ本の持つパワー 
本書から漂う熱気はどこかで受け継がれていると信じたい

エロ本黄金時代
著 者:本橋 信宏、東良 美季
出版社:河出書房新社
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子どもの頃、空き地や草むらに落ちているエロ本の汚れたページをめくって、わけも判らず興奮した記憶がある。「エロは河原が教えてくれる」は、某テレビ番組でのピエール瀧の名言である。

そのエロ本が終焉の危機を迎えている。直接の理由は、インターネットによるエロ動画の普及とエロ雑誌の読者の高齢化だ。付録のDVDに頼らず、撮り下ろしグラビアと読み物で構成されるエロ本は、この二年ほどで姿を消してしまったと、本書で安田理央は云う。若い世代はもはや、紙媒体で勃起することはないのだろうか?

エロ本は「実用」だけでなく、普通に売っている雑誌にはないパワーを感じさせた。その誌面は、いまでも十分に見ごたえがある。白夜書房の名編集者・末井昭の『素敵なダイナマイト・スキャンダル』、南伸坊の『さる業界の人々』など、エロ本業界の回想録は少ないながらあるが、どれも例外なく面白い。出版界の慣習を無視して、ハチャメチャな本づくりを実現していく姿がパンクでカッコイイからだ。

本書は、一九七〇年代末のセルフ出版、現在の白夜書房創立からはじまる八〇年代のエロ本出版界を「黄金時代」ととらえ、そこに立ちあった編集者、カメラマン、ライター、デザイナー、モデルらの肖像を描いている。

この時代のエロ本と云えば、荒木経惟や赤瀬川原平が登場した「写真時代」が代表格だが、本書では同じ白夜書房の雑誌でも、八三年創刊の「ビデオ・ザ・ワールド」にスポットを当てている。同誌はアダルトビデオ・裏ビデオの専門誌で、ライターが歯に衣を着せずに新作を批評し、無名だった永沢光雄がのちに『AV女優』にまとまる女優インタビューを続けていた。

編集長の中沢慎一は、「ある部分をキッチリ押さえておけば、全編エロじゃなくてもいいんじゃないかと思ったんだよ。エロ本とはいえ雑誌なんだから、雑誌における遊びの部分というか、幅があった方がいいんじゃないかと」とインタビューで語っている。

白夜書房と違う路線を行ったのが、英知出版の「ベッピン」「すっぴん」だった。社長の山崎紀雄はセルフ出版の立ち上げにも関わったが、AVメーカーの宇宙企画を設立。そこでデビューさせた美少女が、これらの雑誌に登場した。山崎は美少女を際立たせるために、セーラー服を特注するほどのこだわりを見せたという。

このほかにも本書に登場する人たちは、どこか世間からズレていて、とても魅力的だ。大学在学中にひょんなことからヌードモデルになった中村京子は、「この業界にできるだけ長くいよう」と考え、バーを経営しつついまでもAVに出演する。ピンク映画出身で、エロ本に批評を持ち込んだライター・奥出哲雄は、AVメーカーの経営に失敗し姿を消す。

著者二人の対談で、東良美季は云う。
「もちろんエロも欲しいんだけど、いちばん大切なのは、社会のエッジにいるような感覚だと思うんです。(略)ぼくはエロ本の中にはなんとなく、自分と同じようなやつらがいるなあ、みたいな感覚が大切だと思う」

いつの時代でもそうだが、若い世代は「やりたいこと」と「やれること」の間で揺れている。「エロ本黄金時代」の人たちは、いまいる場を生かして自分の仕事をつくっていった。

残念ながら、エロ本の世界からはすでにその「場」は失われてしまったが、本書から漂う熱気はどこかで受け継がれていると信じたい。そうでなければ、本書はたんなるノスタルジアの産物でしかないのだから。
この記事の中でご紹介した本
エロ本黄金時代/河出書房新社
エロ本黄金時代
著 者:本橋 信宏、東良 美季
出版社:河出書房新社
以下のオンライン書店でご購入できます
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