パリ、五月革命の残光 ―六八年に関する展示―  (第三回/全四回) 西 山 雄 二|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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パリ、五月革命の残光 ―大学改革と抵抗運動―
更新日:2018年7月3日 / 新聞掲載日:2018年6月29日(第3245号)

パリ、五月革命の残光 ―六八年に関する展示― 
(第三回/全四回) 西 山 雄 二

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国立美術学校での「闘争状態のイメージ」展(写真提供:西山雄二)
二〇一八年の春から夏にかけて、パリでは八カ所の会場で六八年に関する展示や催事が企画されている。

フランス国立美術学校では「闘争状態のイメージ フランス極左の視覚文化(一九六八―七四年)」が開催。六八年前後の異議申し立ての時代をフランスの若い芸術家たちがいかに表現したのかがテーマである。その趣旨は「出来事のたんなるイラストではなく、闘争の地平として産み出されたイメージを考察することで、私たちは歴史をよりよく理解することができるだろうか」「イメージが創作された文脈に置き直すことで、その本源的な効果を見出し、力強い美的経験を引き起こせるだろうか」。五月革命時に美術学生らが創作したポスターが壁全面に掲示されており、生々しい圧倒的な迫力だ。

フランス国立図書館での展示は「六八年五月のイコン イメージに歴史あり」。五月の数々のイメージの生成や受容の過程を追うというややマニアックな企画である。機動隊と対峙する活動家コーン・ベンディッド、旗を振りかざす女性「五月のマリアンヌ」の映像は、後年の刊行物を通じて徐々に象徴的イメージとして流布した。神話的イメージは時間をかけて醸成されるのだ。他方、多数の学生と警官による「バリケードの夜」にはイコンが不在である。
国立図書館での「68年5月のイコン イメージに歴史あり」展 (写真提供:西山雄二)
フランス国立中央文書館での展示「六八年、権力のアーカイヴ」は実に興味深い。これまで学生や労働者ら運動側の資料や証言は次々と公開されてきたが、今回は初めて政府側の資料展示がおこなわれているのだ。監修者はフーコーの資料責任者でもある歴史家フィリップ・アルティエールで、その趣旨文は魅力的。「六八年は遠くなってしまったが、六八年は抵抗する。【…】本展示は六八年に関する『真実』を提示するものではない。時系列にそって権力側のアーカイヴが示されることで、私たちは闘争運動の順に即して、さまざまな作戦の一覧を発見する。この一覧によって、棄却された作戦、決定されたが実現されなかった作戦など、検討された数々の仮説をうかがい知ることができる。要するにこれは、危機に対する作業が進行している国家の特異な年代記なのである。」

内務省の総合情報局のメモや分析データ(学生と労働者への対策)、作戦リスト。ストで機能しない郵便網に代えて、軍用機で郵便サーヴィスを代替させる計画資料。六月には治安部隊から逃走していた若者が河で溺死したが、その現場検証資料。大統領支持のデモのためのチラシ。五月以後のフォール文科相による大学改革資料。もっとも見応えのあったのは、革命運動に終止符を打った、五月三〇日のド・ゴール大統領のテレビ・ラジオ演説の原稿で、何度も手書きで修正された跡が重要な歴史的瞬間を物語っている。

建築遺産博物館では「六八年五月、建築もまた!」が企画され、六八年の出来事が建築分野、とりわけ美術学校の学生や若き建築家に与えた影響と動向を資料展示している。一九六六年頃からすでに美術学校では建築系学生と教師が当時のフランス現代思想の影響を受けて、理論より実践、アカデミズムより職人的な教育を求める動きが始まっていた。伝統の否定、政治参加、教育の形式と内容の刷新などが六八年を通じて加速する。戦後の「量」を重視する建築から、「質」を問い直す建築への転換である。建築家と都市計画専門家らは権力装置に奉仕する機能性を拒否し、普遍化・政治化・ラディカル化、要求・理想・欲望といった三位一体が唱えられた。

六八年の記憶と記録を総合する歴史化が進んでいるが、数々の展示では歴史の生成過程に踏み込んだ多角的な試みがおこなわれ、人々に公開されている。歴史資料はたしかに地味だが、しかし、アーカイヴこそが人間の歴史をその深部で形成する。とりわけ体制側の資料がこれほど公開展示されたことには感嘆した。日本の六〇―七〇年代の体制側の資料はどうだろうか。いや、極東のあの島国では二一世紀になっても公文書が隠蔽され改竄されている。展示を見ながら、この圧倒的な落差を感じて眩暈がする思いだった。
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