『ザ・ビッグハウス』映画公開&書籍刊行記念トークイベント載録  不思議な〈世界〉の切り取り方 (想田和弘×武田砂鉄×マーク・ノーネス)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年6月29日 / 新聞掲載日:2018年6月29日(第3245号)

『ザ・ビッグハウス』映画公開&書籍刊行記念トークイベント載録
不思議な〈世界〉の切り取り方
(想田和弘×武田砂鉄×マーク・ノーネス)

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『ザ・ビッグハウス』が、六月九日(土)から東京・シアターイメージフォーラムを皮切りに、全国で順次公開中である。ミシガン大学が誇る巨大スタジアム「ザ・ビッグハウス」を、想田和弘が提唱・実践する「観察映画」の手法で撮ったドキュメンタリー映画だ。そこには、「アメリカ」という国が色濃く映し出されていた。また、映画公開に合わせて刊行された想田和弘著『THE BIG HOUSE アメリカを撮る』(岩波書店)には、今回の映画づくりの裏側が描かれ、ドキュメンタリーをさらに豊かに楽しませてくれる。六月五日には青山ブックセンター本店で、想田和弘、フリーライターの武田砂鉄、監督の一人であるマーク・ノーネス(第二部から)により、トークイベントが行われた。その一部を載録する。(編集部)
第1回
第一部:アメリカで「観察映画」を撮る

※『ザ・ビッグハウス』(監督・製作・編集:想田和弘/監督・製作:マーク・ノーネス、テリー・サリス/監督:ミシガン大学の映画作家たち)©2018 Regents of the University of Michigan

想田 和弘氏
想田 
 そもそも、僕がなぜザ・ビッグハウスを撮ることになったかというと、後ほど登壇するミシガン大学教授のマーク・ノーネスさんが、大学に僕を一年間、客員教授として呼んでくれたんです。彼は小川紳介などを中心に研究しているドキュメンタリーの専門家で、彼とテリー・サリス上級講師と僕の三人で教えながら、学生たちとザ・ビッグハウスのドキュメンタリーを撮らないかという誘いでした。
ただ、僕はザ・ビッグハウスを全く知らなかった。それでググった(笑)。
武田 
 えっ、そこからですか(笑)。
想田 
 ザ・ビッグハウスとは、ミシガン州アナーバーにある、アメリカ最大のアメフトスタジアムであり、ミシガン大学のアメフトチーム、ウルヴァリンズの本拠地だと。何でもばかでかいアメリカで最大のスタジアム、その収容人数は一〇万人。東京ドームは五万五千人だから、倍ですね。
武田 
 横浜国際総合競技場が約七万人弱の収容。そして、北朝鮮でマスゲームなどを行うスタジアムが、ここよりも大きいと。
想田 
 北朝鮮が一位で、ミシガンが二位。
武田 
 二位が大学所有のアメリカンフットボールの競技場とは驚きます。
想田 
 しかもアナーバーの街の人口は約一〇万人なんですよ。この時点で、何か面白そうだ、とは思っていました。
武田 
 想田さんが観察映画を撮る際に設ける「十戒」があります。今回の企画では「十戒」と、どう折り合いをつけたのですか。
想田 
 最初から守れないだろうと思うものもありました。通常は一人でカメラを回して、自分が撮ったもの以外は使わない。でも今回は学生たちと一緒に撮るのだからそれは守れません。製作費も通常は自分で出すことにしていますが、今回はミシガン大学の企画だから守れない。でも、いつもと違う条件と環境で映画を撮るのだから、その辺りは許容してよいだろうと。
唯一こだわったのは、どれだけ白紙の状態で撮れるかということでした。マークさんやテリーさんが目指しているのが、最初にストーリーやテーマを決めて、それに沿って撮影をしていくようなものだとしたら、参加するのは難しいなと。
武田 
 想田さんは常々、「ドキュメンタリーは目的地を決めぬ旅」のようなものだからこそ面白い、と仰っていますね。
想田 
 実のところ、白紙でカメラを回し始めるというのは、かなり特殊なやり方で、ストーリーを定めてリサーチを行い、テーマに沿ってカメラを回すというのが、一般的なドキュメンタリーを作る方法なんですよね。でも僕はそれはドキュメンタリー映画の本来あるべき自然な姿だとは思っていない。テーマを設定すると、それに沿うものにカメラを向けるし、編集でもテーマに合うことばかり摘まむようになり、発見のないご都合主義の映画になってしまう。この方向性の合意は、僕にとって非常に重要でした。でもマークさんもテリーさんも、問題なく僕の意向を受け入れてくれました。
武田 
 当初、学生たちが撮ってきた映像を、どのように評価されましたか。
想田 
 撮影自体初心者の学生が多く、映像がブレて、八割は使えないものでした。それ以上に不安だったのは、被写体からのカメラの遠さです。知らない人にカメラを向けるのは怖いんですよね。撮影は、普段私たちが無意識のうちに引いている、人と人との境界を踏み越える行為なんです。初めてドキュメンタリーを撮る人には、このラインを踏み越えることが難しい。公に通用する映画を作ろうと考えていましたが、どれぐらい学生たちの映像を使うことができるのか、と。
武田 
 想田さんはとにかく近距離に迫って撮るので、よく自分の影が映り込んでいますよね(笑)。
想田 
 そうそう。近づき過ぎて、カメラの先端についたマイクをぶつけてしまうことがあるぐらい。学生には、近くから撮ること、何が起こるか分からないからなるべく長く回し続けること、と言い続けました。
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この記事の中でご紹介した本
THE BIG HOUSE アメリカを撮る/岩波書店
THE BIG HOUSE アメリカを撮る
著 者:想田 和弘
出版社:岩波書店
以下のオンライン書店でご購入できます
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