変貌する「難民」と崩壊する国際人道制度 21世紀における難民・強制移動研究の分析枠組み 書評|小泉 康一(ナカニシヤ出版)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年6月30日 / 新聞掲載日:2018年6月29日(第3245号)

変貌する「難民」と崩壊する国際人道制度 21世紀における難民・強制移動研究の分析枠組み 書評
独自の視点から現状分析を行う 
難民問題に対する一貫した姿勢が生んだ貴重な労作

変貌する「難民」と崩壊する国際人道制度 21世紀における難民・強制移動研究の分析枠組み
著 者:小泉 康一
出版社:ナカニシヤ出版
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難民関連の書籍が少なかった日本においても、ここ数年、日本国内・海外の難民問題に焦点を当てた良書が研究者、実務者の手によって、堰を切ったように精力的に出版されている。日々深刻化する難民の時代への危機感の表れといえようが、そうした中で本書の特色は変貌する難民を「危機移民」という切り口で、著者独自の視点から現状分析を行い、その処方箋ともいえる分析枠組みの提供を試みている点だ。著者は、元UNHCRのタイ駐在プログラムオフィサー。一貫して難民・国際強制移動民を対象に研究を続けてきた現場を知る専門家だ。共著の論文集ではなく、単著の形であればこそ生まれた一貫した姿勢が表れる。

著者は現在の難民の状況を、「解決への適切な道がとられず、先送りしてきた問題が暴発」したものとみる。“難民”と呼ばれる人の中味が益々多様で複雑化し、世界で最も寛大に難民を受け入れている国々が難民条約に未加入であるという矛盾。国際難民制度は本来の保護ではなく、物資の配布という長期にわたる「人道援助」に変質し、短期の緊急事態用に計画された対応策がしばしば長期化している。今ある難民の概念や定義は、第二次世界大戦と冷戦中に難民移動を引き起こした時代と場所の産物であり、21世紀の多様で複雑な強制移動に適合していない。難民条約と保護が乖離し、現代の“危機”の下で、難民に関する一貫し統合されたグローバルな統治の枠組みは存在していない。「難民とその家族にごく普通に保護が与えられるよう、安全で早急な法的措置と制度を作り出さねばならない」のである。

こうした問題意識に基づき、著者はメディアや政治家が唱える“危機”という言葉に異議を申し立てる。難民、避難民、移民をすべてひとくくりに「脅威」という枠に押し込める現状こそが解決可能な事態の解決を一層遠ざけているというのだ。難民問題を私たちが引き受け可能な範囲内で対処するために人の避難を解決可能な問題として正確に位置づけること、十把一絡げで難民と呼ばれる人々が内実は「難民」でも「移民」でもないことを明らかにし、かわりに(学問的にはまだ定まっていない名前と断りながらも)「危機移民」という言葉を提唱すること。対処方法のない危機的状況から抜けだす根拠となる理論的な見通しを持った革新的研究の足掛かりをつくること。これらを目的として出発したのが本書である。

この目的に基づいて、本書は4部7章から構成される。第1部「生き残りをかけて移動する人々」第1章「様々な危機移民、様々なニーズ」では、その形態や避難の決断方法、権利などから分類し、決してステレオタイプで一元化できない現代の危機移民像を描き出した。第2章「グローバリゼーションと難民・強制移動民」、第3章「難民・強制移動研究―理論的枠組みと方法」からなる第2部「難民・強制移動民の現状と研究の枠組み」では、国際強制移動の現状を、特徴と問題点から整理し、アカデミックな視点から研究と政策、現実との乖離を分析し、国際強制移動研究の展望へとつなげている。第4章「不可視の脆弱者―国内避難民」、第5章「都市難民の揺れ動く心と不安定な生活―東京・新宿のビルマ人難民認定申請者」、第6章「気候変動と強制移動―気候変動は避難移動の直接の原因となるのか」からなる第3部では、不可視化された難民、国内避難民(IDP)の中でも特に可視化されない都市在住のIDP、都市にいる難民、環境難民に焦点を当てて、まさに「解決を迫られる緊急の課題」をあぶりだした。続く第4部「グローバル・イシューとしての危機移民」の第7章「グローバルな避難と合意の政治」では、海外からの送金と頭脳流出問題、開発問題としての難民など政治的側面から光をあてた。

危機移民がおかれた状況に著者は、深い思いを寄せつつも情緒的にならずに、たとえば「環境移民」の項では、定義や用語をめぐる歴史的経緯、政治的課題をもあぶりだしている。追い込まれ、選択をしようにもその幅がない人たち、脱出不可能な状況に置かれた非市民(外国人)や拷問、ジェンダー人身売買の被害者を見るまなざしは共感にあふれている。

著者が繰り返し訴えるように、「難民」像は一枚岩ではなく、変貌を遂げ続けている。それに対応する制度も、変貌を遂げなければ、この問題の行きつく先はまさに闇しかない。本書はそうした実情に対して、それを止めるための挑戦の書でもある。難民支援の現場からスタートし、研究に軸足を移して40年の、著者の難民問題に対する一貫した姿勢が生んだ貴重な労作である。
この記事の中でご紹介した本
変貌する「難民」と崩壊する国際人道制度    21世紀における難民・強制移動研究の分析枠組み/ナカニシヤ出版
変貌する「難民」と崩壊する国際人道制度 21世紀における難民・強制移動研究の分析枠組み
著 者:小泉 康一
出版社:ナカニシヤ出版
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