公共図書館の冒険 未来につながるヒストリー 書評|柳 与志夫(みすず書房)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年6月30日 / 新聞掲載日:2018年6月29日(第3245号)

公共図書館の冒険 未来につながるヒストリー 書評
公共図書館のスリリングな論集 
これまでとは異なるかたちが見えてくる

公共図書館の冒険 未来につながるヒストリー
編集者:柳 与志夫、田村 俊作
出版社:みすず書房
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同じく「本」を扱っていながら、これまで出版界と図書館界の距離は遠かった。

出版界からすると、図書館は本が流れていった先の受け皿のようなものだ。自分たちがつくり、売った本を、図書館がどのように受け入れ、そこでどのように利用されているかについての興味は薄かった。著者や編集者のなかには、地元の図書館に行ったことがないと事も無げに言う人がいる。実態を知らないままに、著者や出版社が図書館を「無料貸本屋」扱いし、出版不況を招いた「敵」だと決めつけているのではないか。

一方、図書館界の側も、自分たちの図書館の運営が最重要であり、それ以外の本の世界には無関心だった。制度の是非は別にして、指定管理者という「外」の視点が導入されるまでは、公共図書館ではイベントなどの新しい試みへの機運は乏しかった。また、図書館界の内部でも、国会図書館、大学図書館、学校図書館、県立図書館と市町村立や区立の図書館では、同じ土俵に立っての対話が成立しにくいようだ。そのせいか、率直に言って、図書館員が書く図書館の本は専門的だったり個別具体的すぎたりして、図書館界の「外」にいる読者には届かないものが多い。

そういった両者の関係を変えるきっかけになるかもしれないのが、『公共図書館の冒険』だ。

「ともすれば、図書館を中心に社会関係を見てしまいがちな『公共図書館史』ではなく、出版流通の観点を含む社会的文脈の中で見直す」という趣旨を持ち、公共図書館のサービス、蔵書、装備、図書館員、出版業界との関係などを論じた七章で構成されている。

いま私たちが日常的に利用している公共図書館のかたちは、一九六三年の「中小レポート」と七〇年の『市民の図書館』(ともに日本図書館協会)で示された、館外への貸出サービスを主体にするという方向性によって生まれた。それまでの図書館では、狭い閲覧席が受験生によって占領されていたが、館外への貸し出しを強化することで利用者の滞在時間が短縮された。

蔵書についても、利用者の読みたい本のリクエストに応じたこともあり、小説やエッセイ、実用書などが増えていく。文庫本や漫画も所蔵対象になっていく。その一方で、郷土資料の収集やレファレンスサービスの重要性が低くなり、その結果、専門的スキルを持った館員が姿を消していく。

これに並行して、本の整備の簡素化と業務のアウトソーシング化、コンピュータ目録やICタグの導入などが行なわれた。また、図書館で働く職員のうち、非常勤や委託・派遣などの職員の割合が増えていった。

こうした変化を受けて、小説や映画、漫画などのフィクションに登場する図書館員のイメージが、こうるさくてお役所的なおじさん・おばさんから、優しい女性へと変わってきたという指摘は興味深い。これは近年、よく取り上げられる「居心地のいい図書館」像にも合致するからだ。

このように本書は、いまの公共図書館のかたちになるまでの過程を、さまざまな角度から丹念にたどっている。出版界との関係についても、じつは「協調への取り組み」があったことが第四章で明らかにされている。このなかで、一九九〇年代半ばに生れた、鳥取県米子市での「本の学校・大山緑陰シンポジウム」と雑誌『季刊・本とコンピュータ』が評価されているのは、両者に関わった者としても誇らしい。

それとともに、戦後に「国家イデオロギーの伝達装置」として否定された戦前の図書館にも、現在につながる要素があったことも見落としていない。

たとえば、明治初年に各地に設置された「書籍しょじゃく館」が、旧態依然たる蔵書構成のために消えていったのに対し、新しい時代の読書ニーズを満たしたのが、本郷や神田の学生街にあった「新式貸本屋」であったこと。あるいは、一九〇八(明治四十一)年の日比谷図書館の開館にあたり、「一般書を収集して、市民の日常的な読書要求に応える小規模図書館(通俗図書館)を複数建設すべきだとする意見」があったことなど。

歴史のなかの可能性を拾っていくと、これまでとは異なる公共図書館のかたちが見えてくるかもしれない。本書は、そう感じさせてくれるスリリングな論集だ。
この記事の中でご紹介した本
公共図書館の冒険 未来につながるヒストリー/みすず書房
公共図書館の冒険 未来につながるヒストリー
編集者:柳 与志夫、田村 俊作
出版社:みすず書房
以下のオンライン書店でご購入できます
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