DOUBLE TAKE 再現された世紀の一枚 書評|ヨアキム・コーティス(青幻舎)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
マイページで記事のブックマーク!
ログイン
マイページ登録

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは マイページ

読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年6月30日 / 新聞掲載日:2018年6月29日(第3245号)

能動的に「見る」ことを促す 
写真の本質に迫ろうとする作品集

DOUBLE TAKE 再現された世紀の一枚
写真家:ヨアキム・コーティス、エイドリアン・ゾンダーレッガー
出版社:青幻舎
このエントリーをはてなブックマークに追加
写真は通常、一回きりのシャッターチャンスをものにすることで名作になる。ロバート・キャパの「崩れ落ちる兵士」も、アンリ・カルティエ=ブレッソンの「サン=ラザール駅裏」も、たった一度シャッターボタンを押しただけでイメージが生まれ、世界的に有名な写真になった。しかし、それらの名作写真を分析し、再構築してみたらどうなるだろう。本書は模型をつくるというアナログな手法で、それを実践して見せた。一瞬で成立した名作写真とは逆に、たっぷりと時間をかけて全三十九枚の写真をつくりだしたのだ。

作者の二人はチューリッヒ芸術大学時代からユニットを組んできた。最初の一枚はアンドレアス・グルスキーの「ライン川Ⅱ」。オークションで四三〇万ドルの値がつき、世界最高額の写真になったこの作品を模型で再現できないか、という思いつきから始まった。彼らはアトリエで模型づくりに試行錯誤し、ライティングを工夫した。アポロ11号の月面着陸の写真では、月面らしさを出すために砂や小麦粉を試し、最後にセメントパウダーにたどり着いたという。このようにして彼らは著名な写真をアトリエに再現していった。

名作写真の再現はこれまでも例がある。なかでももっとも熱心に取り組み、作品数も多いのが森村泰昌だ。名画の登場人物に自ら扮する作品で知られる森村は、「なにものかへのレクイエム」というシリーズで二〇世紀の名作写真を再現している。ほかの作品と同様に写っている人々を何役も演じ分け、歴史的な出来事を一つずつ検証していった。私は雑誌の特集記事のためにこのシリーズの撮影現場を取材し、エキストラの一員にもなった。思い知らされたのは、写真を真似るためには細部にわたる観察が必要であり、多くの人が「見た」と思い込んでいるのはそのうちのごくわずかな部分だけだということだった。

ヨキアムとエイドリアンも、森村と同様、再現しようとした写真について独自にリサーチし、その結果をテキストにして添えている。森村と彼らが異なるのは、森村が元の写真をフレーミングまで忠実に再現したのに対し、彼らはアトリエのなかの模型として引いた視点で撮影していることだ。つまり、この写真は模型によって名作写真を再現しているのだ、と最初から見る側に手の内を明かしている。その姿勢から感じられるのは、どんな著名な写真もフレームの外がどうなっているかはわからないのだ、というアイロニーである。

私たちは何の気なしに写真を見て、何かがわかったようなつもりでいる。が、写真は遥かに多くの情報を含み、ときには巧妙なウソが隠されている。この写真集は、いわば写真を掘り進め、より深く理解するための方法の開示であり、そのプロセスそのものを作品化したものである。つまり、読者の側も写真を能動的に「見る」ことを促される。写真を模倣しているように見せかけて、実はその本質に迫ろうとしている作品集なのである。
この記事の中でご紹介した本
DOUBLE TAKE 再現された世紀の一枚/青幻舎
DOUBLE TAKE 再現された世紀の一枚
写真家:ヨアキム・コーティス、エイドリアン・ゾンダーレッガー
出版社:青幻舎
以下のオンライン書店でご購入できます
このエントリーをはてなブックマークに追加
タカザワケンジ 氏の関連記事
読書人紙面掲載 書評のその他の記事
読書人紙面掲載 書評をもっと見る >
芸術・娯楽 > 写真関連記事
写真の関連記事をもっと見る >