神話・狂気・哄笑 ドイツ観念論における主体性 書評|マルクス・ガブリエル(堀之内出版)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年6月28日 / 新聞掲載日:2016年2月12日(第3127号)

刺激的な「ドイツ観念論」読解 
「私とは何か」を徹底的に問い尋ねる

神話・狂気・哄笑 ドイツ観念論における主体性
著 者:マルクス・ガブリエル、スラヴォイ・ジジェク
出版社:堀之内出版
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「ドイツ観念論」と呼ばれる一群の哲学思想を今日改めて再評価しようとする人々がいる。しかし文脈を異にする種々の思想を一挙に展望する視座を我が物とし、そうした高みから各思想の布置関係を見据えながら、今一度カントとその後続者たちの哲学に新たな解釈を加えることはごく少数者にのみ限られた特権であるように思われるし、少なくとも至難の業である。むしろ多数の読者にとって疎遠になりつつあるテクストに近づくことのできる通路があるとすれば、本書の二人の著者が至難の業を披露する背後でそうしたように、「私とは何か」ということを、ポスト・カントの哲学者たち、とりわけフィヒテ、シェリング、ヘーゲルとともに、一切の妥協なしに徹底的に問い尋ねるときであろう。

シェリングの『自由論』の翻訳を手掛けた西谷啓治がフィヒテをして、「西洋哲学の全歴史のうちで、「自己」というものを最も深く掘り下げて究明した哲学者」と評したことがある。この評価は、マルクス・ガブリエルに従えば、自己ということで、客体(「世界」)との相関関係の内にある人間的主体(「自我」)に留まらず、超主体的な主体(「絶対者」)をも含むという点で、シェリングとヘーゲルにも当てはまることになる。ガブリエルは「いわゆる絶対的なもの(物自体)と相対的なもの(フェノメナルな世界)との隙間を絶対的なものそのもののうちに位置付ける」という点で、「カントからポスト・カント的観念論への移行」を追遂行することを、この観念論読解に課せられた「決定的な責務」として引き受け、この責務をスラヴォイ・ジジェクとともに「ドイツ観念論における主体性」の脱構築として展開しようとする。そこで特に二人が焦点を当てるのは「主体の有限性」であり、言い換えれば「主体の捕えがたさ」である。

この主体の捕えがたさのためにガブリエルが持ち出すのは、シェリングの概念装置における「神話」や「思考以前の存在」といった前反省的なものである。反省は主体(反省するもの)と客体(反省されるもの)を区別するだけではない。むしろ区別の廃棄不可能性の背後には反省されざるものが非反省的な仕方でつねに保持されている。この反省の「起源」はただ反省の徹底を通して「隠喩」という手法を用いて必然的に語られるものの、シェリングの「神話」がヘーゲルの「反省」と呼応するように、いつでも別様に語られうるという不確定性を有している。この不確定性を「偶然性の必然性」(メイヤスー)ならざる「必然性の偶然性」として擁護することこそ「主体」という「存在」に向き合うことである、とガブリエルは論じる(第一章「反省という神話的存在」)。

ジジェクは実在と現象との間の「不均衡」の内に主体の捕えがたさを認める。仮面とその背後に隠された素顔との隔たりが消え去るとき、人は「狂気」に陥る。しかしヘーゲルに見られるように、狂気は仮面と素顔の区別の不安定性を指示するもの、不安定性を隠蔽する「常識」とは別の仕方(「習慣」)を要求するものでもある(第二章「二つの自由をめぐる規律訓練」)。この常識とは別の仕方が、フィヒテの場合、現象としての主体がその有限性のゆえに実在を「〈外部〉の介入」として偶然性に委ねつつ、その偶然性を実践的に引き受けてゆく「賭け」にも似た態度(「哄笑」)となることをジジェクは描き出す(第三章「フィヒテの哄笑」)。

この刺激的な「ドイツ観念論」読解を後にするならば、主体の有限性により相応しい存在論――ガブリエルの唱える「新実在論」――への関心が生じることはもとより、しばし偶然性に身を委ね、「私とは何か」という問いに対する「神話・狂気・哄笑」という答えを、「ドイツ観念論」との格闘の中で自らの思索を練磨した日本の哲学者たちの答えである「無の自覚的限定」(西田幾多郎)や「脱底の自覚」(西谷)と比較対決させる知的かつ実存的な誘惑に駆られても不思議ではなかろう。(大河内泰樹、斎藤幸平監訳)
この記事の中でご紹介した本
神話・狂気・哄笑   ドイツ観念論における主体性 /堀之内出版
神話・狂気・哄笑 ドイツ観念論における主体性
著 者:マルクス・ガブリエル、スラヴォイ・ジジェク
出版社:堀之内出版
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