堤清二 罪と業 書評|児玉 博(文藝春秋)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2016年10月7日 / 新聞掲載日:2016年10月7日(第3159号)

堤清二 罪と業 書評
堤一族にまつわる「肉声」の記録 ありのままにとらえたレポートに

堤清二 罪と業
出版社:文藝春秋
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堤清二 罪と業(児玉 博)文藝春秋
堤清二 罪と業
児玉 博
文藝春秋
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これまでも、堤家を題材に取り上げたノンフィクション作品は数多く世に出ている。西武王国を一代で築き上げた堤康次郎の強引な経営手腕、乱脈きわまる女性関係、後継者たる異母兄弟の確執、どれをとっても興味深いテーマなのである。しかし、これは堤清二の最晩年85歳のとき、7回にわたるインタビューをもとに構成され、今まで語られてきた堤一族にまつわる物語の真偽を、当事者にただした「肉声」の記録である。

経営者堤清二として「セゾン文化」を掲げて消費革命の先頭に立ち、詩人・小説家辻井喬として数々の文学賞を受賞した人が、時に感情を高ぶらせ、時にあまりにも無防備な心情をさらけだす姿には複雑な思いを抱く読者も多いと思う。これは加齢の故というよりも、著者の聞き取りに対して誠実に応えようとした結果なのだと信じたい気持ちになる。

辻井喬は伝記小説『父の肖像』を2004年に発表して、野間文芸賞を受賞している。日ごろから父への嫌悪と反発を隠さなかった清二が、暴君の「業」に翻弄される一族を描くなかで、自分に対する父の愛の痕跡を必死に探し求めている。このインタビューの中でも「父に愛されていたのは私なんです」という切実な声を残している。

著者がいちばん問いたかったのは、セゾングループ倒産後、作家辻井喬に専念していた堤清二が、西武グループの総会屋への利益供与が発覚、義明会長辞任という事態に、突如として再建者側を相手に「グループは堤家の財産である」と声を上げたのは何故かということだった。それに対して、「何かあったら僕が義明を助けますから」という50年前に交わした父との約束を守るためだと答えている。父が命がけで守ろうとした財産を、子供として守ってやりたいと思うのは当たり前だというのである。堤家の事業継承者が異母弟義明であるのは周知のことだが、「父の死で堤の家を継ぐのは僕ですから」と平然としている。

異母弟義明を「凡庸な人」と見下し、西武王国を自分が引き継いでいればこうまで簡単に崩壊させなかった、その罪滅ぼしに「毎日、父に詫びております」との言葉に狂気を感じたという。それでいて母親に話がおよぶときには涙を溢れさせ、その悲しみが父への憎しみへと揺れ動く。知的な経営者といわれた清二が、矛盾にみちた発言を繰り返す姿をありのままにとらえたレポートに、雑誌部門の大宅ノンフィクション賞が贈られている。

卒業式典が学生のヤジで騒然となるなか、顔色を変えることなく来賓祝辞を棒読みする堤康次郎、側近がロビーにいる客を強引に押しのけ、その後を傲然と歩む堤義明、経営者と作家との顔を巧みに使い分け、相手の力量を値踏みする堤清二、評者個人の記憶である。彼らは社員に「独裁者」と呼ばれていた。堤家永遠の繁栄という夢が破れたとき、清二がその語り部を引き受けたのは、一族の長としての矜持だったのか。
この記事の中でご紹介した本
堤清二 罪と業/文藝春秋
堤清二 罪と業
著 者:児玉 博
出版社:文藝春秋
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