デザインの種 いろは47篇からなる対話 書評|鈴木 一誌(大月書店)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年7月8日 / 新聞掲載日:2016年2月12日(第3127号)

物質をめぐる苛烈な戦闘 
この書物はその最前線からの報告書

デザインの種 いろは47篇からなる対話
著 者:鈴木 一誌、戸田 ツトム
出版社:大月書店
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著者であるふたりは、杉浦康平のいた場所でそれぞれ実践を学び、その後めいめい独立して現代を牽引するデザイナーとして書物のデザインに携わってきたが、2001年から2010年にかけて共同の責任編集人となり、季刊雑誌「d/SIGN」を10年間にわたって18冊出し続けることになる。出版の勢いが急激に減速しつつあったこの時期であったのにもかかわらず、いや、いま思えば、それだからこそ、驚くほど冒険的で贅沢な出版であり続けた。

その編集後記として載せた「戸田ツトムと鈴木一誌の対話」を纏め、それをベースにしたものがこの書物である。

当時そのときどきに読んだぼくにとっても随分鋭く切り込んでいるように思えたが、それがこのように隙間のない束となり、1冊の書物になった瞬間、その鋭さは時代のトピックを超え、壁のように現前していながらいまやほとんど手に負えなくなってしまった現代の諸問題に立ち向かい、それを切り刻んで切開しようとするふたりの批評の鋭さであったことに気がついた。

ふたりが一緒に仕事をしているからこそ生まれるドライヴ感、同じ時代を間違いなく共有しているという同志意識、予想通りに、あるいは予想を裏切って、つぎつぎと生起する問題に対して真っ直ぐに立ち向かうふたりの反射神経。そのやりとりが鋭いのだ。間髪を入れず、立て続けに、断定と命題がラッシュしているのである。

勢いに乗ると、ひとりのセンテンスはどんどん短くなり、その並び方は、どこかヴィトゲンシュタインの「論理学論考」の命題にさえ似てくる。しかも問題の提起と断定は、そのほとんどが常識を覆しているため、文脈から出血してしまいそうな局面が立て続けに起きていながら、対話相手の深い教養がすぐさま反応し、それを保護し補強する引用が、まるでバンドエイドを貼り付けるかのように素早く差し出され、会話の切っ先は、失速するどころか、さらに尖っていく。

そして、ふたりの話しが最後に行く着くところは、いつも、驚くことに、紙であり、インクであり、活字であり、つまりは、ことごとく物質なのである。

書物の「物質」性が奪われないために、非「物質」化するグラフィックデザインから「熾烈なたたかい」によってもぎ取ったもの、それがふたりの掲げるブックデザインでありエディトリアルデザインのはずであった。にもかかわらず、奪い取ったはずの書物の物質性が、いま、まさに目の前で消滅しようとしているのだとしたら…。

対話のなかで何度も交わされる印象的な言葉は、裏切り、異物性、隙間、まなざしの分裂、抵抗値、不透明、屈折、失敗、リスク、ノイズ、重力などであって、それはことごとく、物質性を圧殺し消し去ろうとする現代の文明、社会、技術、経済への、現場からの批判として投げ込まれている。それがふたりの砦「紙的思考」に集中させる。なぜなら、いくら「複製技術」がデジタル化することによって進もうとも「紙の密度は複製できない」からだ。

そして気がつけば、この危機意識こそ、ぼくがいま建築に感じている希薄感にほとんどリンクしているのである。

一見、物質からはるか遠く離れているかのように思える1枚の白い紙の世界で、物質をめぐる苛烈な戦闘が繰り広げられている。この書物はその最前線からの報告書だ。
この記事の中でご紹介した本
デザインの種 いろは47篇からなる対話/大月書店
デザインの種 いろは47篇からなる対話
著 者:鈴木 一誌、戸田 ツトム
出版社:大月書店
以下のオンライン書店でご購入できます
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