具体性の哲学 ホワイトヘッドの知恵・生命・社会への思考 書評|森 元斎(以文社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年7月9日 / 新聞掲載日:2016年2月19日(第3128号)

具体性の哲学 ホワイトヘッドの知恵・生命・社会への思考 書評
ホワイトヘッドの哲学の現代的な継承と新たなる展開を試みる

具体性の哲学 ホワイトヘッドの知恵・生命・社会への思考
著 者:森 元斎
出版社:以文社
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本書の構成は、第Ⅰ部「具体的なもののほうへ」、第Ⅱ部「形而上学のほうへ」第Ⅲ部「生成のほうへ」、第Ⅳ部「アナキズムのほうへ」、という四部形式である。後書きによれば、その内容は、著者が大阪大学に提出した博士論文「A・N・ホワイトヘッドにおける具体的なものへ」を基に加筆訂正したものとのことである。

はじめの部分で、ジャン・ヴァールの著書『具体的なものへ』のホワイトヘッド論が引用されている。後に『形而上学的経験』を書いたヴァールに影響を与えたホワイトヘッドは、どこまでも直接的な経験の現場から離れずに、物と概念の感得を統合する具体的経験の全体を捉えることを哲学の目標としていた。この意味での「具体性の哲学」が如何に成立したか、それを明らかにするために、ホワイトヘッドの前期の数理哲学から、中期の自然哲学、後期の形而上学に至るまでのテキストを精査し、多くの先行研究を踏まえた上で、著者は本書の第一部の最初の三章にわたって解りやすく祖述している。

著者は、このような発展史的研究を踏まえた上で、本書第一部の四章と五章、および第四部第一章で、二〇世紀後半から二一世紀にかけてのフランスとアメリカに於ける現代哲学ならびに科学論の新しい潮流に着目し、ホワイトヘッドの哲学の現代的な継承と新たなる展開を試みている。そこでは、とくにジル・ドゥルーズの『襞―ライプニッツとバロック』のホワイトヘッド論、そのドゥルーズの哲学をホワイトヘッド哲学の範疇で読み直すことによって新たなる感性論・美学を構想したスティーブン・シャビロ、ホワイトヘッドを「人間の圏域を越えて思索する」数少ない思想家の一人として評価しつつも、自らの「対象志向的存在論」の立場から批判したグラハム・ハーマン、そのハーマンとシャビロの論争、ブルーノ・ラトゥールの科学論、等々、アップ・ツー・デートな諸問題が、関連する文献を丹念に引用しながら紹介されている。この部分は、イリヤ・プリゴジンと共に「混沌から秩序へ」を書いた科学史家のイザベル・ステンゲルスのホワイトヘッド論の言葉を借りて言えば、「ホワイトへッドと共に、そしてホワイトヘッドを超えて」思索しようと試みる一群の現代思想家達の討議のなかに、本書の著者の森元斎氏が、自らの「具体性の哲学」を携えて、積極的に加わっていったものとして大いに評価されるべきであろう。

本書の最終章は、「アナキズムのほうへ、おもむろに―ホワイトヘッド、鶴見、金子」というタイトルがついている。昨年死去した鶴見俊輔は、ホワイトヘッドのハーバード大学での最終講義を聴いた唯一の日本の哲学者であるが、その講義の主題は、「不滅性」の意味の考察であった。鶴見は、このホワイトヘッドの最期の言葉を、「四〇年たって耳に届く」というエッセイのなかで、大逆事件の犠牲者の一人であった金子ふみ子の獄中記の一節と結びつけて論じた。ホワイトヘッドと金子の間には、直接には何のつながりも無いが、「私は私自身を生きる」「一切の現象は現象としては滅しても永遠の実在の中に存続するものと私は思っている」という金子の文章は、確かにホワイトヘッドが最終講義で言ったとしてもおかしくないものである。著者は、「未だ誰もなしえていないホワイトヘッド哲学のアナキズム的展開」をこの最終章で敢行すると述べているが、これはおそらく見かけほど破天荒な試みではない。問題は「アナキズム」の解釈にかかっているだろう。ホワイトヘッドの哲学には、理性で構築された第一原理(アルケー)を更に遡る「生」の直観がある。あたかも、死することによって多くの実を結ぶ一粒の麦の種のように、自らを決定すること(主体として生成を完了すること)によって不滅な対象として永続することが、彼の言う「現実的存在」の「対象的不滅性」である。このような、ホワイトヘッド的な観点から見れば、金子が遺言のように遺した和歌も獄中記も、「永劫に滅する」ことによって不滅となったアナキスト(第一原理の支配を否定するもの)の言葉であり、ホワイトヘッドの言う意味での「命題」として、いつまでも沈黙の内に語り続けるであろう。
この記事の中でご紹介した本
具体性の哲学  ホワイトヘッドの知恵・生命・社会への思考/以文社
具体性の哲学 ホワイトヘッドの知恵・生命・社会への思考
著 者:森 元斎
出版社:以文社
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