ホスピタルギャラリー 書評|板東 孝明(武蔵野美術大学出版局)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年7月11日 / 新聞掲載日:2016年2月19日(第3128号)

◇響き合う生命活動◇ 
美術と医学との軽やかで新しい試み

ホスピタルギャラリー
著 者:板東 孝明
出版社:武蔵野美術大学出版局
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芸術が、権力や富の下から私たち一般のものになって久しい。障害者や高齢者を対象にしたり、地域振興を目的にしたりと、市民との結びつき強化によって、芸術は自らの在り方を問い直そうとしている。

本書もその試みの一つであるホスピタルギャラリーの主旨と作品紹介をまとめたものだが、掛け声のみでなく、思考錯誤しながらも続けている地道さと作品のクオリティが相俟って心地よい。

場所は徳島大学病院の小さな空間である玄関ホール。病院らしくない大学病院を模索し、院内にくつろぎの空間を作ることを提案した病院長・香川征の要請に立ち上がったのは、武蔵野美術大学基礎デザイン学科の深澤直人教授と郷里徳島に事務所も開いている板東孝明教授である。子どもや車椅子の人も見られるようにと低めのケースや手すりを設置するなど空間の性格を決め、ギャラリーの名前をbeとしている。つまり美術と医学の頭文字bとeをとったもので、軽やかな感じだ。

後半は、徳島県在住作家5人の個展についてであるが、頁の多くは、同学科で「形態論」を受講している2年生の作品にさかれている。半年間の授業であるが、毎週プレゼンテーションをし、教員の講評を受けながら、形を解体したり再構築したりして作品を完成させている。「見いだされた『かたち』2:定規」展や「とりのかたち」展などのように、テーマは決められているが素材を自由に使わせる展覧会もあれば、逆に「針金で描く日常」展や「ポジティブなかたち TROPHY」展などのように、素材を針金や石塑粘土などに限定はするものの、自由に主題を決めさせたりしている展覧会もある。

たとえば「定規」展では、定規の目盛りがファスナーの開ける拠り所となったり、カレンダーの1日になったり、トイレットペーパーの使える幅になったりしている。「逸脱をすることが表現者の責務である」と定規の機能を不全にしようとしたアーティストの豊嶋康子などと違い、本書にでてくる作品は、気楽に楽しめる物が多い。

このゆるやかな楽しさは、ギャラリーを訪れた人が書いている感想ノートで読み取れる。「家族が入院してふさぎがちな心をふと軽くしてくれるようなユーモアに満ちた作品展です。思わず笑みがこぼれるような作品ばかりです。」「はっぱの鳥もすんごくきれいです。私は目の手術をします。その前に、この目でこれを見れたことに感謝します。14才女」「一枚の紙に無限の可能性を感じました。我もまた同じかな。」

これらの感想を読むと、作品が訪れた人の生きることと結びついたコミュニケーション・ツールになっているのを実感する。基礎デザイン学科を創設した向井周太郎は、「自然の『かたち』には生の固有の痕跡をとどめる原像と、生命リズムにのってどこまでも生成変化してゆく個々の『かたち』があって、その両者の響き合う生命活動にこそ『かたち』の誕生があり、人がつくる『かたち』に自然がもつ生命リズムが内在するだろう」と述べている。それを受けて「形態に生命をふき込むことをとうして『かたち』の生成に立ち会ってきた学生たちの成果が、生命を守り育む医療の場で少しでも役に立つことができたなら、その時確かに『かたち』を介して、学生と観る人の生命リズムが共鳴した、といえるだろう。」という板東孝明の言葉は、ホスピタルギャラリーを見事に表現している。こういう試みに立ち会えた病院を訪れた人や学生は、幸せというより他ない。
この記事の中でご紹介した本
ホスピタルギャラリー/武蔵野美術大学出版局
ホスピタルギャラリー
著 者:板東 孝明
出版社:武蔵野美術大学出版局
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