不死身の花 夜の街を生き抜いた元ストリート・チルドレンの私 書評|生島 マリカ(新潮社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年7月11日 / 新聞掲載日:2016年2月19日(第3128号)

自分の人生と対話する機会を与えてくれる

不死身の花 夜の街を生き抜いた元ストリート・チルドレンの私
著 者:生島 マリカ
出版社:新潮社
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先日、覚醒剤を所持していて逮捕された元プロ野球選手・清原和博と交際していたことを公言して、はばからない著者。そんな女性が記す人生の不幸を前にして「なんだ、そんなことかよ。私のほうが酷いよ」と毒づく読者もいると思う。筆者も最初に本を手に取った時には、そんな気持ちになった。それは、著者の体験した出来事が現実感のないほどの過酷な体験に満ちあふれているからだ。

文章は決して上手いとは思えない。にも拘わらず、行間から溢れ出る情念ゆえこの本とは、真剣に向き合わなくてはならない気分になる。

なぜなら、ところどころで気になる文章のたどたどしさが、かえって自分の人生をなにかの形で残さなくてはいけないという、ひとりの女性の強い意志を感じさせるからだ。

在日韓国人二世の著者は、生母の没後、父の再婚を機にわずか13歳で家を追い出される。

再婚相手が妊娠をしたから「お前は友達の家にでもいったらどうだ」と実の父親が頭を下げる。わずか13歳の著者はそれに応じ「浮浪児」となった。日が暮れてから団地やアパートを回って玄関先に放置された出前の食べ残しを漁って生き延びる。そんなことが、バブル景気前夜の1984年にあったことなのだ。

それが運命だったのか、底辺から見上げるように社会の構造を体験する人生は延々と続く。クラブのママの仲介で映画『マルサの女2』のモデルになった寺院の管長にマンションをあてがわれる。かと思えばワコールの創業者・塚本幸一には新幹線の中で「東京の人?」と、声をかけられ偶然に知り合う。あらゆる人々との出会いが、偶然と運命とは同じ意味の言葉なのかと思わせる引きの強さである。

そうした人々の描かれ方は、批判でも賞讃でもなく、ただ淡々と魅力的だ。塚本はちょうどワコールの下着をつけているといった著者のブラジャーのホックを服の上からさわり「いやあ、ほんまやなあ」と笑顔をこぼす。一年あまり男女の関係だったという清原和博には「繊細で、傷つきやすく、正直で」と言葉の限りを尽くして、世間では「番長」のあだ名で呼ばれる男の深淵を率直に記している。
「何で俺が身体を張って稼いだ金、そこらの女にやらなアカンねん」といって著者を喜ばせたエピソードから覗くのは、これが女遊びに長けた男の手練手管などではなく、互いに我が身一つで世を生き抜いていこうとしていた男女の懸命な姿である。そこには群れることなく生きるがゆえの哀れさと美しさがある。 

保守から革新まで求めているものは、豊かで平和な日本をこれからもずっと続けていこうとする願望ばかり。でも、本書は教えてくれる。そんなものは、最初からなかったのだと。でも、その中であがきながらでも生きていく人間の姿は、いつも美しくて興味深い。

一人の書き手として、いつでも「人間」を描かなくてはならないと改めて思った。あらゆる読者にとって本書は自分の人生と対話する機会を与えてくれるものになると思う。
この記事の中でご紹介した本
不死身の花  夜の街を生き抜いた元ストリート・チルドレンの私/新潮社
不死身の花 夜の街を生き抜いた元ストリート・チルドレンの私
著 者:生島 マリカ
出版社:新潮社
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