社会システムの生成 書評|大澤 真幸(弘文堂)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年7月11日 / 新聞掲載日:2016年2月26日(第3129号)

「正しく失敗する」とは何の謂いか

社会システムの生成
著 者:大澤 真幸
出版社:弘文堂
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大澤真幸『社会システムの生成』は、1982年から2014年までの彼の「社会システム」に関する論考群である。

ただし2014年に著された「序」は特別な意味を持つ。その理由は、序が他の論考に「現在の観点」から新たな価値を付与するものだからだ。それは、N・ルーマンとM・フーコーという「社会システム論者」の理論がユダヤ教の機序に比され、自身の理論がキリスト教の「神の受肉の論理」に位置付けられる、という示差から提示される。加えて、大澤の社会システム理論が導く運動の「実践的な含意」が、理論の徹底によってアイロニズムを導くルーマンと理論を徹底せず擬似的な抵抗を導くフーコーとの示差をもって、「正しく失敗する(現在においては失敗するが後に正しかったとされる)」ことだと論じられる。よって本書で読み解かれるべきは、大澤の社会システム理論における神の受肉の論理の胚胎の過程と、その理論が導く実践が「正しく失敗する」ことの本態であろう。

以上を踏まえて本書の論考群を見れば、社会システムにおける妥当/非妥当な行為を弁別する規範の源泉となる超越的な「第三者の審級」が、失墜=失敗をてこにしてより高度な普遍性を獲得する機序が繰り返し論じられていることが分かる。また、第三者の審級が成立する可能性の原基である、志向性を持つ身体の力能としての「求心化―遠心化作用」、遠心化作用により顕現する「他者(の身体)」、私の身体(求心点)と他者達の身体(遠心点)との間に蓋然的に看取され、それを起点とする志向作用の内容が諸身体にとって規範的に妥当なものとして確立し、第三者の審級がそこに投射される「間身体的連鎖」は、同時に、求心化―遠心化作用が規範に対して外的かつその秩序に内包しえない本源的他者を露見させ、第三者の審級の具象的身体性とそれが発する規範の非超越性(自己準拠性)が示される可能性がある点で、第三者の審級の失墜=失敗の原因となることも繰り返し論じられる。

よって、大澤の社会システム理論は、その中核に神の受肉の論理さながらの具象的身体性を帯びた第三者の審級を持ち、社会システムの成立=成功に内在する失墜=失敗が、さらなる成立=成功を生成する機序を説明するものだったと言える。またその現代的展開として、自傷行為などの身体加工のあり方に第三者の審級の機能不全=失敗の契機が見出され、その解決に「求心化―遠心化作用の徹底」という自らの理論から導かれる実践的方途が提起される。

ただし、このように提起される実践的方途が「正しく失敗する」理由は、これまでに見た「失敗に内在する成功」の延長線上にはなく、またあってはならない。確かに、現在の社会システム0Sの諸問題に対する解決の方途とともに提起される社会システム1Sについて、
0Sから1Sへと至る機序を示す社会システム理論1Tがあるとして、1Tの失敗により
1Sが実現されずとも、後の社会システム理論nTが1Tを「失敗に内在する成功」と見なす可能性はある。だが、「正しく失敗する」ことの本態がそのような可能性の追求だとすれば、それは社会システム理論nTの可能性を追究せずに社会システム
1Sと社会システム理論1Tを提起したという点で、大澤の批判するフーコーの所作と同じものになる。

おそらく「正しく失敗する」ことの本態は、序の「神もまた人間と同じように弱い」という言明に示唆されている。というのもその言明は、間違うことが内包された第三者の審級、自らの規範に対して外的かつその秩序に内包しえない本源的他者の露見に際し、常に自らの規範を修正/整合することで普遍化を図る第三者の審級を暗示するからだ。よって大澤が目指すのは、社会システムS1,S2,…,Sn,Sn+1,…の失敗をすでに含み込む社会システムxSの構想であり、それに未だ至りえないことを常に失敗として示す社会システム理論xTだろう。ゆえにその理論の中核には求心化―遠心化作用の徹底、すなわち規範に対して違和的な他者との遭遇の積極化が据えられるのだ。

以上のことは本書では断片的にしか語られていない。だが、大澤の言う「不遜な態度」、つまり、ルーマンとフーコーの理論をユダヤ教(民族宗教)に、自らの理論をキリスト教(世界宗教)に例えたことの掛金がはかられるべきはこの地点であるように思われる。
この記事の中でご紹介した本
社会システムの生成/弘文堂
社会システムの生成
著 者:大澤 真幸
出版社:弘文堂
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