記号と機械 反資本主義新論 書評|マウリツィオ・ラッツァラート(共和国)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年7月11日 / 新聞掲載日:2016年2月26日(第3129号)

人間の「外」へ、言語の「外」へ 
一九六八年の「敗北」以降、「政治的主導権を回復するにはどうしたらいいか」

記号と機械 反資本主義新論
著 者:マウリツィオ・ラッツァラート
出版社:共和国
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本書のモチーフは、一九六八年の「敗北」以降、「政治的主導権を回復するにはどうしたらいいか」に尽きている。あくまで資本主義下における労働(者)の視点から論じられるのは、一九七〇年代にアウトノミア運動に身を投じ、現在もアンテルミッタン(非常勤芸能従事者)や不安定生活者(プレカリアート)らの連携組織の活動に関わる著者ならではだろう。

その主張を一言で言えば、人間の「外」へ、言語の「外」へ、ということになろうか。かつてラッツァラートは、『出来事のポリティクス』(2008年)の巻末インタビューで、「私はあらゆる人に、フーコーの最後の二つの講演録(『安全・領土・人口』、『生政治の誕生』)を読み、考えることを勧めたい」と述べた。言うまでもなく、フーコーは『言葉と物』で、「言語」と「労働」と「生命」が可能にした「人間」という概念の終焉を論じた後、『生政治の誕生』において、今や労働価値説は失効し、労働者は「人的資本」であり「企業」であるとすら見なされる新自由主義へとパラダイムが転換したことを宣告した思想家だった。

ラッツァラートは、人的資本化は、だが「失敗」したと見る。というより、土台それは無理なのだ、と。「資本主義は次第に自由、イノベーション、創造性、知識社会などにもとづいた叙事詩的な英雄物語から離れていった。いまや人々は、金融、企業、福祉国家が社会に「委託する」ものをすべて引き受けなくてはならない」。要は自己責任であり、そのために「非物質的労働者」は、他の労働者や消費者とともに「莫大な量の無給労働を行なっているのである」と。

当初、人的資本は、自由や創造性の「物語」によって労働者の解放を謳った。今や皆、資本家(企業)である!と。だが思うに、「世界に一つだけの花=創造性」を実現するためには、まずもって「花屋の店先に並ぶ=商品としての価値を持つ」必要がある。それに、現在の資本主義はそれほど「花=認知労働者」を必要としない。多くの者は、花屋に並ぶことすら出来ずに放擲されるだけ、というわけだ。しかも、資本はそうした者を放っておいてもくれない。花となれない大多数の者は、ラッツァラートが言うように、永遠に返済し終わることのない債務を、生まれる前から背負わされた「借金人間」(ホモ・デビトル)として捕捉されることになる(『〈借金人間〉製造工場』2012年)。何も剰余価値を産み出さないなら、せめて借金を背負うことで資本主義に貢献しろ、というわけだ(以前も論じたが、人的資本化した現在の大学生は、奨学金を通じて「借金人間」として統治されている。かつてのような労働のエートスを喪失している彼らは、代わりに借金を返済するというモチベーションによって就職へと急き立てられている)。

ラッツァラートが、さかんに「社会的服従」と「機械的隷属」の区別を強調するのは、この人的資本のまやかしに対する警告だろう。たとえ、資本家に従属する労働者という「社会的服従」から解放されたかに見えても、われわれは、さらにモルならぬ分子のレベルで、また「シニフィアン」以前の「非(前)シニフィアン」の記号論を通じて、何よりも主体=個体ではなく「主観性=動的編成」(ガタリ)として、資本主義なる「機械」への「隷属」を余儀なくされているのだ、と。

こうした新自由主義の統治の「外」へと出るのは容易ではない。本書が見出そうとする「出口」は、フーコーの「パレーシア」のようだ。確かに、共産主義や労働価値説という「真実」も「価値実体」もすでに見失われたなか、著者曰く「「どこにも真実がないとき」われわれはどう生きるべきなのか」を模索したフーコーの晩年は、「別の生」「別の世界」を諦めそうになるわれわれを、もう一度奮い立たせる。(杉村昌昭・松田正貴訳)
この記事の中でご紹介した本
記号と機械  反資本主義新論/共和国
記号と機械 反資本主義新論
著 者:マウリツィオ・ラッツァラート
出版社:共和国
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