第二五回 松本清張賞贈呈式開催|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年7月6日 / 新聞掲載日:2018年7月6日(第3246号)

第二五回 松本清張賞贈呈式開催

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川越 宗一氏
六月二九日、東京都内で第二五回松本清張賞の贈呈式が行われた。受賞したのは川越宗一氏の『天地に燦たり』。なお受賞作は七月六日に文藝春秋から刊行される。

賞の贈呈後、選考委員を代表した挨拶で東山彰良氏は、「川越さんの作品は、最初に読んだ時に教えられた部分が多いと思った。選考会の席上でも話題にされたのだが、皆さんの言葉を借りるなら「薬臭い」部分が結構あった。ただし、この一事を持って作品にマイナス点を付けられるかというと、そんなことは全然ない。それはひとつには歴史時代小説の読者というのは、おそらく何かを教えてもらいたい人がたくさんいるのではないかと思われるから。そしてもうひとつは、やはり川越さんのとても新人とは思えない卓越した筆力があったからだと思う。物語は豊臣秀吉の朝鮮出兵の時代、三人の主人公がいて、一人は薩摩の侍、もう一人は朝鮮国の被差別民、そしてもう一人は琉球のスパイのような人物。この立場も利害関係も異なる三人が、戦の中で相まみえるような話だった。この三人は、立場も住む場所も文化もぜんぜん違うのだが、ある一点で共通している。それは三人ともに儒学の礼というものをとても重んじることだった。
天地に燦たり(川越 宗一)
天地に燦たり
川越 宗一
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川越さんはこの礼について重点的にページを割いているのだが、それがおそらく若干の薬臭さを感じた部分なのではないかとも思うが、その礼を登場人物たちが自分なりの思想や哲学として消化して血肉化していく過程が丹念に描かれていた。つまりこの作品が教えることを超えて伝えてくるのは、哲が悔しそうというものを盲目的に信じたり、教条主義的に何にでも当てはめるのではなく、それぞれの立場によってその思想をちゃんと引き寄せて自分のものにすることが大切なのだということだった気がする。さらにその奥にはもう一層深い思想があるようにも思える。それは価値観の相対化ということだ。三人の登場人物は、礼という価値観を絶対視しつつも、お互いにせめぎあうことでだんだんに相対化している。また物語の構造上、地理的な移動を伴うことによって、それぞれが異なる文化や思想に触れて自分なりの礼を勝ち取っていく。その過程を非常にスリリングに読むことが出来た。まさに歴史時代物でありながら、移動文学の風格すら漂っていると僕には読めた。移動によって物語に葛藤が生じ、その葛藤を沈めていく過程でより高次の精神状態に到達するところが、やはりこの作品の見所なのではないか。我々選考委員は今年この作品を選出できたことを喜んでいる」と挨拶した。ちなみに単行本の表紙は、砂浜に兜が置かれてある絵なのだが、そのアイデアは東山氏によるものなのだそう。

つづいて受賞者の川越氏は「歴史小説で賞をいただき、たぶんこれからも歴史を題材にした小説を書くつもりだ。僕は現代に暮らす人たちの思いを描きたいと思っているのだが、現代というのは過去の、時代時代の人たちの思いや営みの積み重ねが繋がって出来ているもので経緯があり、その経緯を作った人たちの流れがある。それを書くことで現代というものを描くことが出来たらと思っている」と話した。
この記事の中でご紹介した本
天地に燦たり/
天地に燦たり
著 者:川越 宗一
出版社:
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