第二三回 小西財団日仏翻訳文学賞 授賞式開催|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年7月6日 / 新聞掲載日:2018年7月6日(第3246号)

第二三回 小西財団日仏翻訳文学賞 授賞式開催

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石橋 正孝氏
第二三回小西財団日仏翻訳文学賞の授賞式が、六月五日、東京都港区の駐日フランス大使公邸にて行われた。受賞は石橋正孝氏、ジュール・ヴェルヌ『地球から月へ 月を回って 上も下もなく』(インスクリプト、二〇一七年)に決まった。フランス側の選考は、受賞者及び受賞作品なしという結果となった。

選考委員の堀江敏幸氏は選評をこう述べた。「ジュール・ヴェルヌという作家は、古くから日本に知られている素晴しい作家で、初版のころから素晴しい大判の挿絵がついています。そのためでしょうか。同世代の作家に比べて、「文学的な」側面からはやや評価が遅れている作家でもあったと思います。ヴェルヌの背後には〈驚異の旅〉という、膨大な作品群がありますが、子ども向けのリライトではなく、真正面から作品オリジナルをそのまま訳す今回の試みは素晴しいもので、しかも初版に見合う美しい造本で完成された受賞作は、堂々たる成果だと思います。特に「地球から月へ」「月を回って」さらに二〇年ほど遅れて書かれた「上も下もなく」という、いわゆる「ガン・クラブ三部作」を、一巻にまとめるというアイデアも素晴らしい。本来ヴェルヌは、息苦しい非常に稠密な描写ですが、石橋さんはその文章を新しく論理的に、最低限の表現を加えて見事に軽やかな、ぜい肉を落とすような文章を作り上げた。言葉遊びも含めて、隅々まで神経の行き届いた翻訳が出来上がったと思います。これをもっておそらくヴェルヌの見方が大きく変わり、日本での新しい需要が始まるのだろうと思っています」
受賞者の石橋氏は「ヴェルヌを翻訳する苦労の大半は、純粋に語学的な問題ではなく、ひょっとするとご本人も十分に理解しないまま、手当たり次第に拾い読みした本から抜き書きしてきたデータの性格に関連することであったりします。物語を追う上で、あるいは作品を読み込む上で、ほぼ必要がない箇所が多くあり、さらにフランス語を母語とする専門家に説明を求めても、即答が帰ってこないことが大半なので、それを端折ったり適当に訳したとしても、気がつく読者は恐らくほぼいないでしょう。だからといって、この細部には価値があるけれども、それ以外は価値がないなどと、判断する資格や権利が一介の翻訳者にあるでしょうか。翻訳に限らず、あらゆるテクストが細部の積み重ねであるときに、原文に対する誠実さを精一杯に貫いた場合とそうでない場合とでは、出来上がった訳文の全段において、「何か」が決定的に異なっているはずであり、その「何か」こそが、作品の名作たるゆえんだと信じています。翻訳を通じて原文より多少なりと読みやすくなり、その結果が評価されるとしても、手柄は一重に原著者にあります。ヴェルヌは、自分が語っていることを、愛情を持って信じていて、それゆえにある面でリアリティの神経をとがらせざるを得なかった人だと思います。先ほどの「何か」とは、そうした側面に共感を抱かせてくれる、あるいは他にある欠陥を許したくなるようなものです。万が一にも拙訳が少しでも実現し得ており、そのことを選考委員の先生方が嗅ぎ取ってくださったのだとすれば、幼い頃からヴェルヌを愛読してきた一読者として、返しきれない恩をわずかとはいえ返せたことになり、これにまさる誇りはありません」と話した。

祝辞や受賞作の朗読などが続いた後、賑やかな懇親会となった。
この記事の中でご紹介した本
ジュール・ヴェルヌ〈驚異の旅〉コレクション II 地球から月へ 月を回って 上も下もなく/インスクリプト
ジュール・ヴェルヌ〈驚異の旅〉コレクション II 地球から月へ 月を回って 上も下もなく
著 者:ジュール・ヴェルヌ
出版社:インスクリプト
以下のオンライン書店でご購入できます
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