テレビ成長期の日本映画 メディア間交渉のなかのドラマ 書評|北浦 寛之(名古屋大学出版会)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
マイページで記事のブックマーク!
ログイン
マイページ登録

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは マイページ

読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年7月7日 / 新聞掲載日:2018年7月6日(第3246号)

映像メディア産業の現代史 綿密な資料調査と幅広い事例分析を通じて解明

テレビ成長期の日本映画 メディア間交渉のなかのドラマ
著 者:北浦 寛之
出版社:名古屋大学出版会
このエントリーをはてなブックマークに追加
1953年に日本でテレビ放映が開始されて以降、複数の視聴覚メディアのテレビに「客を取られた」ことを主因とする凋落の歴史がしばしば語られてきた。たとえばテレビの普及により、売り物の駄菓子を携えた「紙芝居屋さん」が子どもたちに見せる街頭紙芝居は終焉に向かったとされる。1950年代に隆盛を極めた日本映画界も、映画観客動員数がピークに達した1958年以降は衰退期に至るが、映画観客数が増加から減少に転じた1959年とは、当時の皇太子明仁と美智子妃のご成婚パレードを家庭で見るために、テレビ登録世帯数が急増したのと同じ年にあたる。したがって、従来の日本映画史記述は、映画とテレビの競争的、対立的な関係を前提として、テレビの台頭のもたらした映画の凋落を語ってきた。また、映画に比して、テレビには「真・善・美」を映し出し、正しく伝達する力が欠けているといった言説も継続的に現れてきた。

本書は、もっぱら映画側の視点から、テレビをライヴァルもしくは劣位の存在としてのみ捉えようとしてきた従来の映画史記述の「対抗的な本質主義」とは一線を画し、1950年代以降の映画とテレビの間に交わされた活発な交渉の動向を、綿密な資料調査と幅広い事例分析を通じて解明してゆく。また、従来の映画史が、監督とスターをはじめとする代表的な作り手と、名高い作品を中心とする視点から記述される傾向に対し、本書は映画及びテレビの産業全体の動向に注目し、1950年代から70年代にかけて、たんに客を争い奪い合うのみならず、人材、リソース、テクノロジーを盛んに交換し共有しつつ、それぞれダイナミックに変容していった映像メディア産業の現代史を記述してゆく。また、マクロな企業経営史や産業技術史の視点から、映画とテレビの両産業の変遷を論じるのみならず、それを従来の日本映画研究が蓄積してきた作家論・作品論的なアプローチに有機的に接続してゆく論述が、本書の史的記述にさらなる厚みをもたらしている。たとえば、映画が、テレビにはない特別な価値を主張すべく依拠した最重要テクノロジーのひとつであるワイドスクリーンを、すぐれた監督たちがいかに活用したかを、とりわけ加藤泰監督のワイドスクリーン作品の空間デザイン、人物の配置、視線と情動の演出を緻密に分析しつつ論じてゆく第7章は、産業技術史と作家論・作品論を融合させるすぐれた実践の一例といえるだろう。

本書が記述するのは、映画産業は、深夜興行やエロ映画・やくざ映画の充実などによって、「家の外」に出入りできる成人男性を、テレビ産業は、メロドラマの充実などによって、「家の中」にいる主婦を、それぞれに主要な顧客として取り込もうと試みるという、ジェンダーと年齢による娯楽の分化の歴史でもある。本書は、「多くの電化製品の家庭への急速な普及によって、女性の家事が軽減され、余暇のテレビ娯楽が楽しめるようになった」(236頁)との説に依って、女性のテレビ視聴行動を説明するが、ルース・シュウォーツ・コーワン『お母さんは忙しくなるばかり』(法政大学出版局)などは、家電の導入で家事に必要な人手が減った結果、主婦となる女性の家事時間は、増大してきたとする、それとは対抗的な説を提示している。いずれにしても、女性が公的な娯楽空間から遠ざけられ、家の中に留め置かれるプロセスが、高度成長期の日本において進行していた可能性が、本書の厚みあるメディア産業史記述からは垣間見えてくる。そうした状況下にあって、なおも「映画」を求めた女性たちはどのように行動したのか、それは、今後また新たに論じられるべきテーマであるだろう。
この記事の中でご紹介した本
テレビ成長期の日本映画 メディア間交渉のなかのドラマ/名古屋大学出版会
テレビ成長期の日本映画 メディア間交渉のなかのドラマ
著 者:北浦 寛之
出版社:名古屋大学出版会
以下のオンライン書店でご購入できます
「テレビ成長期の日本映画 メディア間交渉のなかのドラマ」出版社のホームページはこちら
このエントリーをはてなブックマークに追加
鷲谷 花 氏の関連記事
読書人紙面掲載 書評のその他の記事
読書人紙面掲載 書評をもっと見る >
芸術・娯楽 > 映画 > 映画論関連記事
映画論の関連記事をもっと見る >