カミングアウト 書評|砂川 秀樹(朝日新聞出版)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年7月7日 / 新聞掲載日:2018年7月6日(第3246号)

マイノリティとマジョリティをつなぐ 
読めばカミングアウトが重要視される文脈にも理解が及ぶ

カミングアウト
著 者:砂川 秀樹
出版社:朝日新聞出版
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「カミングアウト」という言葉はメディアやインターネットにおいてはずいぶん軽いものになってしまっているが(出身県の食習慣や風習について芸能人が語り合うTV番組のタイトルにも「カミングアウト」という言葉が冠されるくらいである)、もともとは同性愛者が自らの性のあり方を異性愛者に対してオープンにしていく営みを指す。LGBTという言葉が流行語になりこそすれ、日本社会においてセクシュアルマイノリティはいまだに白眼視され、いないものとされもする。だからこそ、カミングアウトは依然として大切な営みであり、その重要性は何度でも繰り返し語られる必要がある。

砂川秀樹『カミングアウト』は、今なお強調されるべきカミングアウトの意義を、平易な言葉によって、読者にわかりやすく伝える。とりわけ、豊富に盛り込まれている具体的なカミングアウトのエピソードは、率直に言って涙なしには読めず、一読して「なるほど、これがカミングアウトの意義なのか」と読者に伝わることは間違いない。

ただし、本書は「カミングアウトエピソード集」とは少し趣が異なる。砂川がRYOJIと編集した前著『カミングアウト・レターズ』はエピソードの力で読ませるタイプの書籍だが、本書は各エピソードの間に「セクシュアルマイノリティの抱える生きづらさとはなにか」「カミングアウトとはなにか」「なぜカミングアウトが重要なのか」といった問いに対する砂川の(学者としての)答えがかなり丁寧に差し挟まされており、読めばカミングアウトが重要視される文脈にも理解が及ぶようになっている。カミングアウトの意義について(共感させるのではなく)理詰めで説得する材料も、きちんと一冊の中に揃っているのだ。マイノリティが自身の体験と重ね合わせ実感をもって読むこと、マジョリティがマイノリティの隣人と真摯な関係をつむぐための知識を得ようと読むこと、いずれもが可能になっている本書は、まさにマイノリティとマジョリティをつなぐために長く尽力なさってきた砂川にしか書けないものだろう。

砂川の誠実さは、カミングアウトの意義を語る本書が同性愛者への「カミングアウトしろ」との圧力にならないよう、細心の注意を払って記述を進めている点にもあらわれている。「やれと言われてできるなら苦労はしない」状況だからこそカミングアウトは意義を持つのであり、だからこそ無邪気なカミングアウトの奨励はきわめて無責任な行為でもある。砂川がカミングアウトを扱う、その繊細な手つきをマジョリティはぜひ学んでほしい、と思ってしまうのは、私がまさにカミングアウトしなかったりできなかったりする同性愛者だからだろうか(と同時に、砂川にはいつか「カミングアウトしないという選択」をした人々に関する本も書いてほしいな、と思う。そこにも、単なる「苦渋の選択」ではないリアリティの厚みがあるはずだからである。なにより、私自身がそういう本をぜひ読んでみたいのだ)。

最後に一点だけ補足しておきたい。本書の宣伝文句や帯には「LGBT」という表現が使われているが、本書の中には同性愛者のことしか書かれていないし、砂川自身もそれを冒頭で丁寧に宣言している。同性愛者に「LGBT」を代表させない配慮も、また砂川の誠実さゆえのものだと評者には思える。
この記事の中でご紹介した本
カミングアウト/朝日新聞出版
カミングアウト
著 者:砂川 秀樹
出版社:朝日新聞出版
以下のオンライン書店でご購入できます
「カミングアウト」出版社のホームページはこちら
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