ドレス 書評|藤野 可織(河出書房新社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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【書評キャンパス】大学生がススメる本
更新日:2018年7月7日 / 新聞掲載日:2018年7月6日(第3246号)

藤野 可織著『ドレス』 
京都大学 真部 優子

ドレス
著 者:藤野 可織
出版社:河出書房新社
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ドレス(藤野 可織)河出書房新社
ドレス
藤野 可織
河出書房新社
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『ドレス』に登場する女たちは、例外なく不気味である。表題作にしても、「ドレス」は単なるアクセサリーショップの名前に過ぎず、そこで売られている(男からすれば)奇怪なアクセサリーに夢中になる女たちの話である。よって、この本をウェディングドレスでも選ぶ境遇にある女性の恋愛物語だと思って手にとった読者は、間違いなくこの「不気味な女たち」に圧倒されることになるだろう。

例えば「テキサス、オクラホマ」では、恋人よりもドローンに魅力を感じる女が描かれる。彼女はドローンが高度に発達した世界で、ドローン専用保養所の清掃員として働いている。この保養所のドーム内の空はいつも藍色のグラデーションで、白い砂で覆われた床の上には巨大な骨格標本群が置かれており、そこで無数のドローンたちが休息している。こんな時空間がぐらりと歪むような不思議な光景を、作者は一体どうやって思いついたのであろうか。それはともかく、ドローンを愛してやまない彼女は人間全般にあまり関心がないのだが、そんな彼女を大切に想う恋人がいた。しかし、彼は彼女の聖域である保養所に足を踏み込んだばかりに、ドローンに「解体」されてしまう。それはあたかも情熱的な彼が、冷たい女の内部に飲み込まれてしまったかのようだ。(この恐ろしい構図は、続く「マイ・ハート・イズ・ユアーズ」でも踏襲される。)一方、彼女は恋人がいなくなったところで、泣き叫ぶわけでもなく暗闇の中「白目を光らせ」ながら、彼の形見のパーカーを撫でるのみだ。これが彼女なりの彼への哀悼なのだ。

では何故、本作ではこのような「不気味な女たち」が描かれているのだろうか。その答えは「真夏の一日」における主人公、真夏が見知らぬあどけない男の子と出会った時の描写に秘められているように感じる。
(男の子の)「細い首から丸く頼りない肩にかけての線の寄る辺なさに心がうずいた。それが愛情だとはっきり意識した瞬間、噴き出した嫌悪がそれを塗り潰した。」「男の子の姿と態度は、女である真夏には彼をかわいがる義務があると宣告していた。真夏は敢然とそれを拒否した。」

なぜ彼女はここで、自らの愛情を頑なに否定するのか。それは自身の感情が「母性本能」として語られてしまうことへの嫌悪感からである。他愛もない一個人の感情が、女という性に結び付けられ、義務として迫ってくるくらいならば、そんなものは無かったことにした方が良いのだ。この一見、非情な真夏の態度から伺えるのは、社会の中で女として生きていくための強さである。

本作『ドレス』には、他にも多くの「不気味な女たち」が登場する。しかしなぜ、恋人よりもドローンに夢中になる女が、子供を純粋に可愛がれない女が、不気味なものとして映るのだろうか。それはこの現実世界において、そのような女性像は望まれないものとされてきたからである。彼女たちはいわば、この社会に抑圧され黙殺されてきた女たちである。そんな彼女たちの行動は一見、不可解で薄情だが、作者はこう問うているように思われる。「こんな女がいてもいいではないか」と。
この記事の中でご紹介した本
ドレス/河出書房新社
ドレス
著 者:藤野 可織
出版社:河出書房新社
以下のオンライン書店でご購入できます
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