小林康夫・西山雄二対談 人文学は滅びない 時代の課題に向き合い、新しい人文学の地平を開くために|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 特集
更新日:2018年7月12日 / 新聞掲載日:2016年1月1日(第3121号)

小林康夫・西山雄二対談
人文学は滅びない
時代の課題に向き合い、新しい人文学の地平を開くために

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日本の大学、特に人文学系の学部の存続が危ぶまれている。雑誌『現代思想』では「大学の終焉――人文学の消滅」と題した特集も組まれた(二〇一五年一一月号)。同誌に寄稿された池内了氏の分析によると、文部科学省による国立大学改革は「ほぼ一五年のサイクル」で行なわれてきたという。「第Ⅰ期=産学官共同路線を大学に浸透させつつ、大学設置基準の大綱化と大学院重点化を進めた一九九〇年代」「第Ⅱ期=「法人化」を推進し「選択と集中」政策などの財政措置によって国立大学を植民地化した二〇〇〇年代」「第Ⅲ期=第三期中期目標・中期計画の期間において本格的な国立大学の組織改編や大々的な統廃合を目論む二〇一六年以降」。まさに二〇一六年からは、国による大学改革(改悪)が仕上げの段階を迎えることになる。果たして、日本の大学と人文学はどこに向かおうとしているのか。東京大学名誉教授・小林康夫氏と首都大学東京准教授・西山雄二氏に対談をしてもらった。 (編集部)


※この特集記事は2016年1月1日発行の紙面に掲載された記事です。
第1回
文科省の通知に対して

西山 雄二氏
西山 
 二〇一五年は大学での人文学のあり方をめぐって様々な議論が起こりました。その発端は六月八日に文科省から出された通知「国立大学法人等の組織及び業務全般の見直しについて」です。「「ミッションの再定義」で明らかにされた各大学の強み・特色・社会的役割を踏まえた速やかな組織改変に務めること」とあり、この再定義は八六校の国立大学を三種類に分類することを意味します。先端的な研究教育を進めるトップ大学が約十五、地域の課題に応える大学が約五五、そして専門分野ごとの研究教育に従事する大学、たとえば東京医科歯科大学などの専門的大学が約十五というわけです。さらに通知の中では、「特に教員養成系学部・大学院、人文社会科学系学部・大学院については、〔…〕組織の廃止や社会的要請の高い分野への転換に積極的に取り組むよう努めることとする」と明言されています。ここ十年ぐらい、人文社会科学系の学部について、組織転換を推奨する気配が文科省から感じられましたが、今回初めて文章として「廃止・転換」が記されたことは大きな変化です。大学や人文学の理念と問題を考える際に、私はいつもカントに立ち戻って考えます。大学内外の、あるいは諸学部間での真理をめぐる合法的な争いが大学の理念を成立させるのであって、これは戦争ではないとカントは言います。文科省の通知は戦争の奨励とでも言えばいいのか、「社会的要請」に照らし合わせて、「生き残りをかけて戦ってくれ」と宣言しているようなものです。まず話題になったこの通知に対して、どのように思われますか。
小林 
 一大学人としては、人文社会科学に対する国からの抑圧があることはわかります。ただ、西山さんのリードに添わずに申し訳ないんですが、「文科省の通知をどう思うか」という問いには直接には答えたくないという反応が出てきますね。どういうことか。西山さんは今、カントの言葉を引用しながら話しましたけど、まさに「戦争」という言葉で受けること、そのような「戦い」のモードで受けとめることがすでに「罠」にはまるのではないか、と思うということかな。文科省の通知を受けて、こちらがそれを「戦争への奨励」だと決め付けたり、こちらも文科省の「攻撃」に「反撃」するように「戦い」を組織するという方向へ話しをもっていくと、まさにカントではありませんが、人文科学の、あるいは「大学」の知の中核をなす「知」の時間性が担保されなくなると危惧するわけ。つまり、状況の切迫が確かだとしても、それぞれの態度決定を性急に迫るという方向をかわしたいわけですね。肝心なのは、そうした動きがどういう背景をもって出てきているのかだと思うから、それについての議論なしに、一片の通知をめぐって、国から戦いがしかけられた、よし、こちらも戦うぞと反応してしまうと、ポリティカルなゲームに乗っかることになる。そこをかわしたい。もし人文学の存在意義を主張するのであれば、なぜ今このような変化が生じたのか、歴史的コンテクストを把握した上で、どう応答すべきか判断しなければいけない。人文学の危機という深刻な問題を、文科省の通知などに集約させたくない。そんなものは無視したい。もっと大きな危機を抱えているという方向に議論していきたい。それを議論の最初に言っておきたいです。もちろん政治というのはまさに「時間」を奪うわけだから、瞬時に抵抗していかなければならないことも理解できるのですが、人文学にとっては、時間の留保が決定的に重要なんですね。時間がない時に、しかし思考のための「留保」を取る。そういう矛盾した行為を引き受けなければいけないと思うんです。だからまずは、世界的に大学そして人文学の置かれている状況、その歴史的コンテクストについて西山さんがどう考えているのかを知りたいと思います。
二一世紀の知識資本主義

西山 
 歴史的・社会的コンテクストを読み解くことが大切だというのは承知しています。現在に至る前段階として、いろんな負荷が徐々に大学にかかってきました。財政削減の観点から二〇〇四年、国立大学法人化が実施され、大学がナショナルな経済政策の一環であることが決定的になりました。運営費交付金が一律に削減される仕組みが導入される一方で、競争的資金は増大し、成果主義的な予算配分が研究教育の自由や自律性を圧迫しています。大学は知的な戦略拠点として位置づけられ、「選択と集中」によって大学の競争力を高める政策が次々と打ち出されてきました。ヨーロッパと比較すると、欧州連合が形成される中で、一九九八年に高等教育のヨーロッパ的統合、いわゆる「ボローニャ・プロセス」が合意され、ヨーロッパ圏内の大学の一元化が計画されました。教師と学生の流動化促進、単位互換制度の確立など、ヨーロッパ全体で大学における研究教育の競争力を高めようという動きが起こりました。大学の現状はこうした歴史的なコンテクストの中で形作られてきました。たしかに近いところでは、二〇一四年五月に安倍首相がOECD閣僚理事会で「学術研究を深めるのではなく、社会のニーズを見据えた、もっと実践的な職業教育を行なう」と発言しました。しかし、短期的に見て、安倍首相あるいは文科省の一部の官僚といった個々の要因だけで、昨年の文科省通知が出されたわけではありません。
小林 
 なぜこの十五年で、今までの大学のあり方に対して、大きな変更が求められるようになったと、西山さんは考えているのかしら?
西山 
 二一世紀の知識資本主義、知識基盤社会において、知識や情報の商品化や技術革新が求められ、知的イノベーションの拠点として大学が位置づけられるようになったからです。グローバル時代において、大学は先端的なイノベーションを先導し、高度な産業技術人材を育成する機関であり、国益や国力に資するナショナルな政策によってその統治や運営が方向づけられるようになってきました。
小林 
 そうですよね。グローバル化した資本主義では、高度な競争が要求される。そこでは国家すら資本主義のひとつのエージェントに過ぎなくなる。なおかつ情報化が急速に、かつ途轍もない規模で進展したこととリンクして、これまでとはまったく違う歴史的な局面に我々は追いやられることになったわけですね。この流れは、Windows95が発売された二十年前からはじまっていると僕は思っていますけど、誰もが予想もできなかったような、すさまじい人類史的変化が現在進行中なわけです。産業革命に匹敵するかそれ以上の大きな変化。しかも、個々の人間のあり方そのものを根底的に変えるようなドラスティックな変化です。そのなかで、大学や人文学をめぐる問題も浮上してきている。それまでは資本主義社会あるいは国家の中で、大学は一種のオアシスというか治外法権というか、まさにUniversityですから、普遍的なものの探求のために、社会の競争原理から相対的に退却した閉域のようなところがあったし、それが「大学」という理念を支えてもいたんだけれど、資本主義の体制が変質したことによって、その特別な権利が認められなくなったどころか、まさに「大学」の「知」の創造こそが、資本主義のもっとも強力な競争要因として認識されるようになってきてしまったわけです。「大学」は、ある意味、資本主義の最先端ですよ、ということになった。それにどう対応すべきか、それが深刻な問題なんですね。僕の世代は、この変化を身をもって体験していささか茫然としているのですが、西山さんたち若い世代、これからの大学を担っていく人たちは、いま大学をどういう場所として考えているのかをぜひ聞きたいです。
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この記事の中でご紹介した本
人文学と制度/未来社
人文学と制度
著 者:西山 雄二
出版社:未来社
以下のオンライン書店でご購入できます
廃墟のなかの大学/法政大学出版局
廃墟のなかの大学
著 者:ビル・レディングス
出版社:法政大学出版局
以下のオンライン書店でご購入できます
「」出版社のホームページはこちら
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