パリ・レヴュー・インタヴューⅠ 作家はどうやって小説を書くのか,じっくり聞いてみよう! 書評|青山 南(岩波書店)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年7月15日 / 新聞掲載日:2016年3月4日(第3130号)

パリ・レヴュー・インタヴューⅠ 作家はどうやって小説を書くのか,じっくり聞いてみよう! 書評
インタヴューの場の情景が対話に魅力的な演劇性を与えて

パリ・レヴュー・インタヴューⅠ 作家はどうやって小説を書くのか,じっくり聞いてみよう!
編集者:青山 南
出版社:岩波書店
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『パリ・レヴュー』誌の名高い作家インタヴューから、カポーティ、ケルアック、アリス・マンロー、ヘミングウェイ、ガルシア=マルケス、ボルヘス、ラシュディなど、二十二人を選び、二巻にまとめた本である。かねてより定評あるこのインタヴュー群は、作家を理解するための多くの有用な鍵となる情報を持つ、いわば「必携のキーボックス」と考えられてきた。

たとえば、ヘミングウェイのよく知られた逸話ではあるのだが、『武器よ、さらば』の最終頁を三十九回も書き直したとか。いっぽう、「殺し屋」「今日は金曜日」「十人のインディアン」の三短編を一日で書きあげた。ガルシア=マルケスが『百年の孤独』の語りのトーンを決めるときに、大きな示唆を受けたのは、超自然的な出来事を淡々と話す祖母の無表情であった。ボルヘスのシェイクスピアへの意外な低評価、レイモンド・カーヴァーのアルコール依存症の体験、あるいは作家たちが影響を受けた文学者、自作の背景、一日のうち執筆に割く時間、筆記用具へのこだわり等……、本書には引照されるべく待ちかまえる発言がたっぷりある。そうした興趣にあふれた作家の言葉を引き出したのは、インタヴュアーたちの自在で即妙な問いであることは言うまでもない。リサーチの行き届いた鋭い質問ばかりでなく、さりげなく配慮された率直な問いもまた応答に奥行きを与える。それこそが対話を動かす巧みというものだろう。もちろん、作家の自作解説といった〈創作の秘密〉について言えば、多分に書き手の陽動作戦の場合もあるわけで、必ずしも真に受けるわけにもいかない。だが、読者によってはあえて真に受けるふりをしてみせる立場があるかもしれず、そうした両者の虚実の駆け引きの面白さを考えれば、インタヴューもまたひとつの作品なのだ。

作家たちの発言内容もさることながら、本書の魅力として特記しておきたいことは、インタヴューの行われた場の情景が、作家の仕草や服装まで含め、丁寧に描写されていることだ。それが対話に魅力的な演劇性を与えている。語りが生身の姿とともにその声音さえ伝わってくる気配がある。作家たちの口調の違いを巧みに訳し分けていることが、その効果を支えているにちがいない。とりわけ、いたるところで笑いを呼び起こす、パフォーマンスに富んだジャック・ケルアックのインタヴューは最も成功した「作品」に思える。

「作品」と言えば、アップダイクはインタヴューに徹底した加筆訂正を行い、出来上がったのは、「ニセのインタヴュー」で、結果として「そこそこまとまった芸術作品」となったが、多くの書評の仕事も続けてきたこの作家らしい豊富な読書歴がうかがわれて興味深い反面、応答の律義さにやや窮屈なものを感ずる。

ソンタグの仕事部屋は、本と紙切れがあふれかえり、メモが本棚に「花綱のように咲き乱れている」。ヘミングウェイは、ハバナ郊外の家の陽光のあふれる広いベッドルームで、シマカモシカの毛皮の上で立って書く。カポーティは、「水平系の作家」で「横になっていないとなにも考えられない」という。レイモンド・カーヴァーの玄関には、「面会謝絶」の看板がかかっている。話しながらたえず煙草に火をつけたり煙を吐きだしたりするヴォネガットの仕草は、「まるで会話に句読点を打っているかのようである」。初夏のローマで行われたインタヴューの最中、イサク・ディネセンがレストランの絵が曲がっていることに気づき直させる場面も、意表をつく動きの面白さがある。

イスラムの背教者として死刑判決を受けて身を隠していたサルマン・ラシュディの場合、当然のごとく、インタヴューの場所は明らかにされていない。話は「フィクションで見せる知的な軽業芸を披露」する活気あふれるものなのだが、この最後に置かれたインタヴューの情景は小説の一節のように、心にしみるものだ。時は、バレンタイン・デー、小雪が落ちてくる。近くのビルのゴミ焼却場の煙突から黒い煙が上がっている。ラシュディはグラスの水を飲み、話しだす……。

最後に、私がもっとも感動を覚えた(とあえて言う)言葉を記しておきたい。ガルシア=マルケスの発言に登場したものだ。「パブロ・ネルーダの詩に、うたうときにわたしがでっちあげをやらないよう、神よ、守ってください、という一節があるよ」。この小文もまた同じ願いをそっと添えてみる。
この記事の中でご紹介した本
パリ・レヴュー・インタヴューⅠ 作家はどうやって小説を書くのか,じっくり聞いてみよう!/岩波書店
パリ・レヴュー・インタヴューⅠ 作家はどうやって小説を書くのか,じっくり聞いてみよう!
編集者:青山 南
出版社:岩波書店
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