日ロ関係史 パラレル・ヒストリーの挑戦 書評|五百旗頭 真(東京大学出版会)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年7月16日 / 新聞掲載日:2016年3月11日(第3131号)

日ロ関係史 パラレル・ヒストリーの挑戦 書評
記念碑的な研究成果 
貴重なインフォメーション、メッセージの宝庫

日ロ関係史 パラレル・ヒストリーの挑戦
著 者:五百旗頭 真、下斗米 伸夫、A・V・トクルノフ、D・V・ストレリツォフ
出版社:東京大学出版会
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本書は、日本とロシア双方の専門家・研究者総勢三〇名以上の執筆陣からなる記念碑的な研究成果である。日ロ関係の歴史について対話を積み重ねてきた「日本・ロシア歴史家会議」の成果であり、副題が「パラレル・ヒストリー」となっているのは、編者の一人の五百旗頭真氏の説明によれば「二つの国の歴史家が一つの歴史認識で同意することまで求めず、歴史の諸局面につき双方が自らの観点を記述し、それを並べて出版する方法」だからである。このことを実現にこぎつけるまでに、関係者の並々ならぬ尽力があったことだろう(経緯についてはD・V・ストレリツォフ氏と下斗米伸夫氏の「あとがき」に簡潔に記されている)。互いに近くて遠い国、平和条約がいまだ締結されていない日ロ両国の専門家によって為し得たこのような成果に、感慨を覚えざるを得ない。

しかも、単に、ある問題(「北方領土問題」など)をめぐって、日ロ双方の専門家が単に自国寄りの持論を述べて両論併記で終わるのとは違って、それぞれ客観性、歴史的事実の検証を本旨とし、なおかつ相手国側の見解にも可能な限り注意を払いつつ、議論を展開している。そのうえで、双方の主張内容の違いが浮き出てくることもあり、そうしたところも本書の見どころのひとつではないか。例えば「南千島」(歯舞群島、色丹島、国後島、択捉島)の帰属問題について、日本側の記述では、「過去一度も他国の領土になったことがない日本固有の領土」という説明が出てくるが、ロシア側の記述では、「一八世紀初めまでこの島々にはロシア人も日本人も定住したことはなく、この島々を一貫して占有することはいずれも行わなかった」とし、この地がロシアにとっても日本にとっても「固有の」領土であったということは正しくなく、島々の発見と占有に関する日ロ双方の歴史的論拠は、領土画定の解決方法としては強固な基盤となり得ないという。また日ソ国交回復後の領土交渉についても、単に両国の政府レベルでの見解の違いのみならず、それらの見解に対する双方の専門家の解釈や位置づけの違いにも、それなりに隔たりがあることがわかる。

むろん本書は領土問題に集約されるわけではなく、時系列的にも「日ロ関係」の発生時からごく最近にまで及び、なおかつ扱うテーマも多岐に渡り、ラクスマンやレザノフなどのロシア使節が来航した一八世紀末、一九世紀初頭の日ロ関係の始まり、その後の両国の国境変動の歴史、日ロ戦争、ロシア革命後の軍事干渉(シベリア出兵)、第二次世界大戦前後の日ソ関係、ヤルタ体制、シベリア抑留問題、国交回復後の日ソ関係、ゴルバチョフ時代、エリツィン時代、そしてプーチン時代にいたるまでの日ロ関係、領土問題交渉などを扱っている。そのスケールの大きさだけで、並々ならぬものであり、読者は、関心のあるテーマや時代から適宜読み進めていくこともできる。それらの「ザ・日ロ関係」ともいうべき主たるテーマに改めて興味を覚えたことはいうまでもないが、「政財界の反ソ・親ソ勢力」といったユニークなテーマにも惹かれたし、また「『例外的に友好な』露日関係」といったロシア人の研究者によって出された論文は、日露戦争後、短期間ながら武力対立の危険を克服する「露日協調」が一〇余年続いたことの背景を分析しており、この積極的な歴史経験は現実性を失っていないとしていることは印象深かった。

本書は、狭義の外交史、国際関係論の視点のみならず、文学作品を通じた日ロ双方の相手国へのイメージ形成、ロシアにおける日本イメージ、ロシアにおける日本イメージなどの表象文化研究をも含んでおり、日ロ関係に関心を有する人文・社会系の学生や研究者のほか、外交実務家や日ロ関係の進展に意欲を持つ政治家にとっても、貴重なインフォメーション、メッセージの宝庫となっているに違いない。蛇足だが、個人的には大学の演習科目の教材に使いたいと思う。
この記事の中でご紹介した本
日ロ関係史 パラレル・ヒストリーの挑戦/東京大学出版会
日ロ関係史 パラレル・ヒストリーの挑戦
著 者:五百旗頭 真、下斗米 伸夫、A・V・トクルノフ、D・V・ストレリツォフ
出版社:東京大学出版会
以下のオンライン書店でご購入できます
「日ロ関係史 パラレル・ヒストリーの挑戦」出版社のホームページはこちら
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