越境者の政治史 アジア太平洋における日本人の移民と植民 書評|塩出 浩之(名古屋大学出版会)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年7月18日 / 新聞掲載日:2016年3月25日(第3135号)

越境者の政治史 アジア太平洋における日本人の移民と植民 書評
越境者から照射する日本近代 
この領域におけるひとつの到達点

越境者の政治史 アジア太平洋における日本人の移民と植民
著 者:塩出 浩之
出版社:名古屋大学出版会
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戦前の日本人移民と植民という「越境者」たちを同じ土俵で論じた岡部牧夫『海を渡った日本人』(2002)を手にした時、自分と問題意識があまりにも重複しており驚いた。いま、「越境者」たちの政治活動から日本近代の国民統合とナショナリズムを読み解く本書と出会い、再びの興奮を禁じ得ない。本書はこの領域におけるひとつの到達点となっているからだ。岡部ならば、本書をどう読み解くのだろうかと、ふと思いを巡らした。

日本近代の特徴の一つは人口増にあり、それは人口圧となって折からの海外膨張主義とも結びついた。1885年以降世界労働力移動の文脈で75万の海外移民が輩出され、「大日本帝国」膨張の文脈で360万が植民地・勢力圏に移り住んだ。前者に関しては移民史研究で、後者は植民地研究で其々に深められる。たとえば、戦前期の越境日本人の政治活動としては、在朝の居留民団や満洲青年同盟が「帝国のブローカー」として重要な役割を果たしたことが明らかにされてきた。だが塩出の真骨頂は、そのような朝鮮・台湾(補論1)、樺太(第5章)、満洲(第6章)などの植民地・勢力圏における政治活動だけでなく、内国植民地であった北海道(第1章)、米国併合化のハワイにおける日本人移民の政治活動(第3章・7章)、さらには横浜等の外国人居留地をめぐる内地雑居論争(第2章)まで幅広く取りあげ、越境者の多様な政治活動から日本近代の国民統合過程を考察するところにある。

たとえば、20世紀初頭のハワイ移民の選挙権をめぐる政治運動の説明において、そこに反映された「日本人という民族集団」のナショナリズムを見事に照らし出す。そして、ハワイでの選挙権をめぐる日本人移民の政治運動は、植民地下という政治的マイノリティという状況下で展開された朝鮮や台湾における政治運動ともそのメカニズムにおいて相通ずることを示唆する。

また、皮肉なことに、韓国併合前は認められていた在朝日本人の特権(自治権)は、併合後は朝鮮人の政治的権利との兼ね合いから認められず、その政治的権利は相対的に低下した。同様に、満洲の関東州や満鉄付属地の日本人の権利も満洲国に統合される過程で相対的に低下させられた。満鉄付属地の満洲国編入問題や治外法権撤廃問題は1937年まで解消されなかったし、日本国籍に拘る日本人の抵抗で満洲国の国籍法施行は難航した。

というのも、日本本土における国民の政治的権利は帝国臣民である外地出身者にも与えられたが、外地在住の日本人には政治的権利が与えられないという「大日本帝国」における属地主義的一貫性が、日本人という民族集団(属人)の所在地による政治的権利の非一貫性(不平等)を生み出し、それがナショナリズム的政治運動と強く関連していたという。それに、「大日本帝国」の崩壊によって、帝国圏には新たな政治状況が生み出され、各民族集団の政治的権利をめぐる新たな運動が生じるが、それは戦後東アジアの新秩序によるものだけでなく、帝国期からの連続と断絶であることをも示している。

本書のユニークさは、最新のパシフィック・ヒストリーの視座を共有し、遠隔地ナショナリズム論やsettler colonialism論という流行の議論を駆使しながらも、戦前の植民政策学の大家である矢内原忠雄をも読み解き、随所にその知見を活かしているところにある。塩出はまさに博覧強記で、長年の蓄積による様々な知見、視座、論点を本書に散りばめている。その結果、本書は越境日本人研究の書であるだけなく、帝国研究やパシフィック・ヒストリーまでカバーする、じつに奥行きの深い作品となっている。

最後に、塩出は、小熊英二(1998)『<日本人>の境界』に出会って研究の道を志し、20年という長い時間をかけて本書を熟成させたという。小熊から塩出という知の継承・発展のドラマは、次はどのような新たなドラマをもたらすのか、大いに期待される。
この記事の中でご紹介した本
越境者の政治史 アジア太平洋における日本人の移民と植民/名古屋大学出版会
越境者の政治史 アジア太平洋における日本人の移民と植民
著 者:塩出 浩之
出版社:名古屋大学出版会
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