アジアの命運を握る日本 書評|井尻 秀憲(海竜社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年7月18日 / 新聞掲載日:2016年3月25日(第3135号)

日本外交の課題を抽出 
自らの安全保障体制について改めて議論を

アジアの命運を握る日本
著 者:井尻 秀憲
出版社:海竜社
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日本の在り方が問われる現在、考察の基礎として必ず読むべき1冊。分析が難しい事象を扱い、報道等の事実から緻密に積み上げた分析及び考察を紹介しているにもかかわらず、非常に読みやすく、理解しやすい表現になっている。

本書は、日本が、アジアにおいて、いかに独自の戦略的外交を確立するかを問うものである。そのために、日本を取り巻くアジアの状況を分析し、日本外交の課題を抽出して、その課題をいかに解決するかを導いている。

著者は、現在、日本の安全保障にとって最大の課題になっている中国について、その「新戦略」を、「中国主導の国際経済秩序作りを目指し、中国初の『多国間安保構想』や『新シルクロード構想』を打ち出したこと」と見なしている。

これを前提として、中国の実態を分析し、中国の戦略の達成可能性について考察する。さらに、米中関係を見据えて、日本には独自の外交を展開する必要がある、と読者に問題を投げかけるのである。

中国及び米中関係の分析に関しては、長年研究を続けてきた専門家である著者の面目躍如といった感がある。著者は、中国の現状を、権力の完全掌握を狙う習近平政権の「反腐敗」等の取り組みから読み解いているが、中国で何が起こっているのかがよくわかる。

次に、中国の「新シルクロード構想」とその世界的影響について触れている。中国国内の状況と中国の対外的活動の関連については多くを述べていないが、この「新シルクロード構想」には、「中国が主導する新たな国際経済秩序の形成」と「米国主導の既存秩序に対する挑戦」の二つの意味合いがあることを明確にすることで、続いて紹介されている現状と課題についての理解を容易にしている。

そして、米中による「覇権争いの場」としての「南シナ海」の状況について、「米中覇権争いの新たな舞台はASEANである」と位置づけ、特に中国によるヴェトナム近海での石油掘削再開をめぐる、中国とヴェトナムの関係の変化について現状分析する。必ずしも著者の主たる研究対象ではないヴェトナム側の動きについては、専門家の分析や意見を取り入れることによって、客観性を担保し、分析の深さを増している。

このヴェトナムも領有権争いに関係している南シナ海で、最も注目を集めているのが、中国による人工島建設であり、軍事施設化である。著者は、この問題について、図解を交えて現状を分かりやすく紹介しつつ、南シナ海のパワーバランスは日米次第で変わる、とする。

日本にも、この問題に影響を及ぼす能力と機会があるとするのである。現状及び予想される中国の軍事的活動等が的確に記述されているのは、プロフェッショナルである海上自衛隊OBの見積もりを取り入れているからだろう。

著者は、ルールのなさこそ、南シナ海の問題を悪化させている原因であるとし、日米韓協力の重要性を訴えるが、一方的に米国に頼れと言っている訳ではない。部分的妥協に終わった米中首脳会談に象徴されるように、米国の中国に対する影響力にも限界がある。

また、米国にも国益がある。著者は、「米中対立の熾烈な攻防の『第二幕』が繰り広げられることになるだろう」と予想しつつも、米中危機管理体制の構築に向けての対話が進んでいることを受けて、米中間では「管理された緊張状態」が続くと想定する。

このような状況だからこそ、日本は自らの安全保障体制について、改めて議論する必要があるとするのである。この、本書の結論とも言える部分には、特に力がこもっている。日本の安全保障の基礎の一つである日米安全保障条約の経緯から現状について述べ、日本外交の課題を抽出する。

結論として、日本外交の欠点の一つは「タイミングをのがすこと」であり、「情報収集や分析が甘い」ことであるとし、「日本外交には、ときには巧みなレトリックの行使も必要になる」とする。そして、日本外交の戦略的思考の在り方を述べるのである。

本書は、主として日本の視点から書かれている。日本の在り方を論じるのであるから、当然でもあるが、本書を基礎として、さらに視野を広げて日本を取り巻く情勢を見、さらに日本の在り方を考えることをお勧めする。
この記事の中でご紹介した本
 アジアの命運を握る日本/海竜社
アジアの命運を握る日本
著 者:井尻 秀憲
出版社:海竜社
以下のオンライン書店でご購入できます
「 アジアの命運を握る日本」出版社のホームページはこちら
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