ルミッキ 1 血のように赤く 書評|サラ・シムッカ(西村書店)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年7月18日 / 新聞掲載日:2016年3月25日(第3135号)

ルミッキ 1 血のように赤く 書評
フィンランドの街を駆け抜けるミステリー三部作

ルミッキ 1 血のように赤く
著 者:サラ・シムッカ
出版社:西村書店
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雪のように白く、血のように赤く、黒壇のように黒く。そう願ったお妃に、白い肌と赤い唇、そして黒い髪を持つ王女が誕生する。王女は白雪姫と名付けられ、この上なく美しく成長するが、その美しさを嫉妬する継母によって三度殺されかけ、そのつど他者によって救われる。四度目に毒りんごを食べさせられてついに息絶え、ガラスの棺に入れられて葬られようとするが、王子の登場によって息を吹き返す。王子は白雪姫を王妃に迎え、末永く幸せに暮らす。

これが、私たちのよく知っているグリム童話“白雪姫”の物語だ。この小説の題名『ルミッキ』は、フィンランド語で“白雪姫”を意味するのだという。それなら、主人公であるルミッキという名の女子高生は、さぞ美しくしとやかで、ピンチになれば誰かが手を差し伸べてくれるような存在に違いない。そう思ってもおかしくはないだろう。

しかしその先入観は、二〇頁ほど読み進んだところで崩れ去る。まずは外見だ。ルミッキは、両親がつけてくれた名前とは「ぜんぜん釣り合っていない。」「髪はくろくないし、肌は白く輝いていないし、唇も人目を引くほど赤くない。」身に着けるのは地味なセーターにジーンズ、ウールのコートとニット帽。茶色の髪をポニーテールに束ねてバックパックを背負い、アーミーブーツを履く。なかなか勇ましい出で立ちだ。

その性格もお姫様とは程遠い。1Kの住まいに一人で暮らし、「コーヒーはブラックで濃く、物事は物事そのままに、住居は住居であればいい」と言い放つ。実に強い。それなら、明るくたくましい、クラスを仕切るタイプか? それも違う。彼女は学校に着くとまず誰もいない暗室に行き、闇の中で心を落ち着けずにはいられない。過去に何か辛い経験をしたらしいことは、作中何度となくほのめかされる。

二月二十九日、いつものように暗室に入ったルミッキは、室内のにおいがおかしいことに気づく。それは、ある程度時間が経過した血のにおいだった……。

物語はここから一気に動き出す。見てしまったものは見なかったことにはならない。アーミーブーツを履いた白雪姫は否応なくトラブルに巻き込まれ、冬のフィンランドの凍りつくような空気の中を猛烈な勢いで駆け抜けていく。

本書は三部作のミステリー小説であり、それぞれの巻で一つの事件が一応の解決をみる。解決に至るまでの、そのスリル感、疾走感が、本書の大きな魅力であることは間違いない。血にまみれた紙幣、ドラッグ、闇組織、秘密のパーティといったダークな世界が、フィンランドの小さな街タンペレ、そしてチェコのプラハを舞台に鮮やかに展開し、今話題の北欧ミステリーとしての魅力を存分に味わわせてくれる。

だが、それだけではない。ルミッキを取り巻く今の中高校生の生活、道行く人々の表情、街の光景の描写が、実に細やかでおもしろい。クラスメイトや周囲の大人たちに向けられるルミッキの視線はかなり辛辣だが、的を射ている。読みながら思わずうならされ、にやりとさせられることが何度もあった。

また、本書は家族の物語でもある。英語には、あらゆる家族は戸棚に骸骨を隠し持つということわざがあるが、ここに登場するいくつかの“家族”はまさに秘密を内包する。ルミッキと両親は、仲が悪いわけではないが会話がない。クラスメイトのエリサは立派な家に住み、何でも買ってもらえるが、満たされているとは言えない。家族という言葉で信者を縛るカルト教団も登場する。夫婦、親子は愛情によって結ばれているが、そこに何か違和感がある。その違和感の正体が解き明かされるとき、物語は終焉を迎える。

米国や西欧とはひと味違う北欧や中欧の文化を楽しみながら、ひととき日常生活から離れたスリリングな世界に浸りたい。そう思うなら、ぜひ手にとって欲しい。(古市真由美訳)
この記事の中でご紹介した本
ルミッキ 1 血のように赤く/西村書店
ルミッキ 1 血のように赤く
著 者:サラ・シムッカ
出版社:西村書店
以下のオンライン書店でご購入できます
「ルミッキ 1 血のように赤く」出版社のホームページはこちら
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