村田沙耶香インタビュー  たやすく変わりゆく世界のいびつで純粋な人を描く 『消滅世界』(河出書房新社)刊行を機に|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年7月19日 / 新聞掲載日:2016年1月8日(第3122号)

村田沙耶香インタビュー
たやすく変わりゆく世界のいびつで純粋な人を描く
『消滅世界』(河出書房新社)刊行を機に

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消滅世界(村田 沙耶香)河出書房新社
消滅世界
村田 沙耶香
河出書房新社
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『文藝』二○一五年秋号に初出の『消滅世界』。その世界観は読者の度胆をぬくものだった。奇想天外ではなく、あってもおかしくないもう一つの世界として描かれていたからこそ、強烈に胸に残る物語。

昨年十二月に単行本として上梓されたことをきっかけに、著者の村田沙耶香氏にお話を伺った。『しろいろの街の、その骨の体温の』で三島由紀夫賞を受賞した著者の、前作『殺人出産』をななめ上へ超えていく、読んで損のない新作である。本紙ではその創作の裏側を、たっぷりお楽しみいただきたい。 (編集部)


※この特集記事は2016年1月8日発行の紙面に掲載された記事です。
第1回
セックスが無い世界で人類はどう生きるのか

村田 沙耶香氏
――前作『殺人出産』にも既存の価値観が覆される衝撃を味わいましたが、『消滅世界』はさらにこれでもか、と読者に揺さぶりをかける作品でした。二作とも人の命にまつわるシステムをテーマに異世界を描いた小説。『殺人出産』を書いたあとに、まだ書き足らないという思いがあったのですか。
村田 
 最近変わった話ばかり書いていますが、それは『新潮』に書いた「生命式」という短編で、人肉を食べるタブーを扱ったのが始まりのように思います。人が死んだとき、葬式ではなく、故人を食べる式を行うと国から補助金が出る。そして式に集った男女が相手を探して妊娠のための受精を行う、という話です。短編だから自由に書いてみよう、と始めたのですが、もっと長いものを書いたら何が見えるのか見てみたいと『殺人出産』を書き、それでもまだ一五〇枚前後だったので、もっと長いものを……とどんどん欲張りになって(笑)。

世の中で疑いなく必ず信じられているもの、タブーが全くない世界、今とは違う倫理観を人々が健全に生きる光景などが、「生命式」を書いたときから浮かんでいて、今まで書き足りなかったことを全部詰め込んだのが、『消滅世界』かな、と思っています。

――今作は、私たちの世界では欠くべからざると見なされている、セックスや恋というものを解体して、一から人間を組み立て直す試みのようにも感じました。壮大な想像世界が広がっていますが、その糸口はどのあたりにあったのでしょう。
村田 
 『殺人出産』に収録した一編に「清潔な結婚」という短編がありまして、それは婚活サイトで知り合ったカップルが、全くセクシャルな行為のない結婚をするという話です。外で別の人とセックスをしてもよいが、家の中には性を持ち込まない、医療機関で人工的に授精する、と。

我ながらヘンテコな話だと思う一方で、実際に友人が家族とセクシャルなことをしたくないと話すのを聞いたり、不妊ではないカップルが人工授精を選択するニュースも目にしました。少しずつ世の中からセックスが無くなっているのかもしれない。でもセックスが一切無くても、私たちは科学の力で命を繋いでいけるのだなとふと思い、セックスが無くなったとき人類がどのように生きるのか知りたくなった。それで書いてみることにしたんです。

――物語は、「アダムとイヴの逆って、どう思う?」という恋人の言葉から始まります。この不可解な質問は、物語全体を柔らかく包む印象的な言葉として、機能していたと感じました。
村田 
 初めはセックスがない世界を描こうと思っていたのですが、そうなったとき家族関係はどうなるだろう、夫婦って何だろうと。考えが広がったときに、私たちの住む世界を構成している様々なものも一緒に、希薄になっていくことに気づきました。その光景が、アダムとイブのいた楽園のイメージに重なったのです。割と書き進んだところで、このシーンを加えた記憶があります。

――「消滅世界」というタイトルは、どのように決まったのですか。
村田 
 これも、禁断の実を食べたために、人間らしい欲望や快楽、出産の苦しみが発生するのとは逆に、人間の本能があるとされるセックスや恋や母性が一つ一つ消滅していく世界が浮かんだところから、割とすんなり決まりました。

――今回の物語世界では、家族と性的な関係を持つことは近親相姦として罰せられ、恋は家庭の外でするものとされます。ヒト相手の恋も減っていて、二次元の恋が主流です。それより後半は、恋自体希薄になっていきますが。

現在では少数派とみなされる恋の形が肯定的に描かれていました。異世界だけれど決して遠からず、マイノリティとマジョリティが逆転することだってありえるだろうと、リアルに思われました。村田さんの作品のリアルはどこから? ニュースや社会の動向などは、作品に影響を与えていますか。
村田 
 いえ、そうでもないです。私なりに世界を見ているつもりではありますが、ニュースよりは、例えばインターネットの中でおしゃべりしている子たちの言葉とか、コンビニエンスストアでアルバイトをしているので、そこで出会う若い女の子の言葉とか、友人の言葉とか。人間に興味があって人間が好きなので、作られたニュースよりは、生の言葉が心に残っている気がします。

無菌室で育ったような性欲、二次元の人物への恋を、現実逃避だと非難する人がいますが、人それぞれの恋の形でいいのではないかと思っています。それぞれが信じている性欲や恋や快楽の在り方に、周囲が他の価値観を押し付けようとする光景が私は怖いです。だから多様な性の在り方を、とことん肯定的に描きたかった。そして、アニメーションや架空のものに対する恋愛が、全面的に肯定される世界に生きる人々を見てみたかったんです。

――物語の中に、懐かしい本や歌のタイトルがいくつも出て来ました。「まっくら森の歌」とか、「おちゃめなふたご」は家にあったので、つい読み返してしまいました(笑)。また『マウス』の中で重要な役割をしめた「くるみ割り人形」の名前も登場しました。考えてみるとこれは、人じゃないものに恋をする不思議な物語ですね。 
村田 
 「くるみ割り人形」のラストは、パターンがいくつかありますよね。すべてが夢だった、という終り方もあるようですが、私が読んだのは、人形が人間の男の子として現れて、ヒロインとともに「人形の国」へ旅立つという話でした。当時読んだ物語には、他にもヒロインが不思議な世界にいったり、不思議なものに恋をする話がありましたが、「くるみ割り人形」は、現実と夢の世界が等価で、地続きに思えました。大人は、夢は夢だと、夢の世界を否定して、現実に生きることを奨励するものだと思っていたので、こんな物語を書いてくれる人がいたのが、うれしかったのを覚えています。 
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この記事の中でご紹介した本
消滅世界/河出書房新社
消滅世界
著 者:村田 沙耶香
出版社:河出書房新社
以下のオンライン書店でご購入できます
「消滅世界」出版社のホームページはこちら
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