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八重山暮らし
更新日:2018年7月17日 / 新聞掲載日:2018年7月13日(第3247号)

八重山暮らし(49)

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八重山各地の豊年祭で大綱引きが行われる。西表島祖納にて。(撮影=大森一也)
大綱引き


やはり雨が降り出した。

祭りは最高潮に達している。雨具を着ける者などいない。今しがた、ひとつに合わさった巨大な綱が道の中央に長々とある。

大木、いや大蛇が横たわるかのよう…。その綱は、すこぶる太く、どこか生々しい。収穫したばかりの稲藁を使って、毎年、新調する。この豊年祭のために。

大綱は、そもそも一本ではない。雌雄の二本があり、それをひとつに繋ぐ。先の輪が大きいものが雌綱だ。これに雄綱をくぐらせ、棒を貫き合体させる。幸せは自ら手繰り、渾身のちからで引き寄せるもの…。現世を生き延びるための切なる想いが村人総出の大綱引きに象徴されている。

闇夜を背に人びとは素足のままガーリの舞で飛び跳ねる。大綱引きが始まる。細く綯った稲藁を額に巻いたおんなが進み出た。ここ西表島祖納では、村を司る神女たちも綱を引く。

雨が激しく降る。つぶてとなって人びとを容赦なく打つ。雨水を吸い、岩石の如き塊と化した大綱にしがみつく。足を踏ん張るたび、尻から転びそうになる。有らん限りの声と共に島人は大綱引きにいどむ。来夏の豊年をまた手繰り寄せるために。

濡れた大綱が道を這うようにずるりと動いた。雨はつよくなるばかり。土砂降りの中ただ綱を引く…。

夜がいっそう深くなる。
(やすもと・ちか=文筆業)
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