対談=森 達也×初沢亜利 隣人、北朝鮮と日本の未来 初沢亜利写真集『隣人、それから。』(徳間書店)刊行を機に|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年7月13日 / 新聞掲載日:2018年7月13日(第3247号)

対談=森 達也×初沢亜利
隣人、北朝鮮と日本の未来
初沢亜利写真集『隣人、それから。』(徳間書店)刊行を機に

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写真家の初沢亜利氏が『隣人。38度線の北』(徳間書店)を刊行したのは二〇一二年のこと。独裁政権、拉致問題と北朝鮮を「悪」とみなす偏ったマスコミ報道の中で、本書は北朝鮮に暮らす市井の人々を写真に収め話題となった。それから六年を経てこの度『隣人、それから。 38度線の北』(同)を上梓した。二〇一〇年の初訪朝から計七度。初沢氏が体験した北朝鮮とはどのような場所だったのか。そして金正日政権から金正恩政権へと移行した北朝鮮ではどのような変化が起こっているか。本書の刊行を機に、訪朝経験のある映画監督・森達也氏との対談をお願いした。 (編集部)
第1回
オウムと北朝鮮、それぞれの内と外


森 達也氏
森 
 二〇一四年に僕も平壌に行って、よど号メンバーを訪ねました。入国した外国人の行動には必ず通訳として監視役が付くけれど、僕に付いた男性はよど号メンバーたちと付き合いが長いこともあって、良い意味で放任主義だったと思います。一人で行動したいと言ったら、短時間ならとOKしてくれました。でもやっぱり一人で街を歩いても、周りの北朝鮮の人たちはリラックスしてくれない。外国人が一人で歩くなどまずありえないから。ビデオカメラは持っていったけれど、なかなかレンズを向けられなかった。そんな体験があったので、写真を見ながらなぜ初沢さんはここまで自然な顔を撮れるのかと驚きます。当たり前だけれど、平壌をはじめ地方にも日本と同じように人が生きて暮らしていることがよくわかる写真集でした。
初沢 
 ありがとうございます。前作『隣人。』を出した時のインタビューで「写真家で影響を受けた人はいますか?」と聞かれて、「写真の世界ではなく森達也さんの影響を受けている」と答えたことがありました。それは『A』や『A2』を若い頃に観て、あれだけ全国民が悪と考えていた、またマスコミが外側からしか報じないオウム真理教を森さんは内側から見ていく。極悪非道と言われる集団だけれど、内側に入ってみると案外そこには人間味があって静かな時間が流れていた。内から外を撮った際の、マスコミが右往左往している姿が印象的でした。内側に一歩入ることで、景色がどのように見えるかに興味を持ちました。そして、それは森さんがフリーランスだからできたことだと思います。僕が最初に企画書を朝鮮総聯に持って行ったのは二〇〇九年です。その当時は北朝鮮バッシングが激しい状況でした。でも北朝鮮の内側に入れば、おそらくそこには我々がイメージしていることとは違う人々の生活があり、時間の流れがあると想像もできた。動画と写真の違いはありますけれど、個人としてどのように社会と関わるか、その関わり方において森さんの作品への姿勢から勇気とヒントをいただけたことを今でも大事に思っています。
森 
 身に余る言葉です。ただ初沢さんが北朝鮮に入ることと根本的に違うのは、撮影を始める段階で僕は苦労していない。極論すれば、「撮影したいので入れてください」と言ったら「いいですよ」と了解された。つまり他のメディアはオウムと交渉をしなかった。たぶん絶対的な悪と自分たちでレッテル貼りをしたから、ネゴシエーションがしづらくなった、ということだと思う。自縄自縛ですね。僕の苦労は撮影中止をテレビ局から言い渡されて制作会社を解雇されてから始まります。まさしくフリーランスになってから。でも同時に、組織を離れて一人になったからこそ、あのような映画になったことも確かです。それに比べれば初沢さんは最初から一人だし、入国は相当に苦労したはずです。受け入れ機関はずっと同じですか?
初沢 
 いえ、最初は朝鮮対外文化連絡協会で、朝鮮国際旅行社にもお願いしました。最近の二回はよど号が受け入れ先です。それぞれ別だけれど、北朝鮮の外務省の日本担当は僕がどのような行き来をしているかは当然把握していると思います。
森 
 北朝鮮はメディアやジャーナリストを国内に入れたがらないけれど、どんな裏技を使ったんですか。
初沢 
 裏技はないです(笑)。朝鮮半島の言葉では写真記者と写真作家は分かれていますが、僕は写真作家だと企画書にも書いたし一貫して言い続けています。厳密に言えば両方に被っているので簡単には分けられませんが、北朝鮮側が僕を信じてみようと思った一つのポイントは、やはりフリーランスだからだと思います。つまり写真集を出す際の最終的なアウトプットまで含めて自分で管理ができる。もちろん編集者と相談はしますが、僕の知らないところでタイトルが付いたり、リードが付いたり、変なキャプションが付くこともない。彼らは僕を信用すればそこで完結する。それがテレビ局や新聞社や出版社の人間では、いくら現地で良い信頼関係を築いても、日本に帰国した後に上司から、「体制批判の番組や記事を作れ」と言われてしまう。信頼関係を裏切るようなアウトプットのされ方をすることで案内人たちは不信感を持つ以上に傷ついてきたそうです。現地での撮影制限の強弱も、先方にとってはシンプルな話かもしれません。
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この記事の中でご紹介した本
隣人、それから。  38度線の北/徳間書店
隣人、それから。 38度線の北
著 者:初沢 亜利
出版社:徳間書店
以下のオンライン書店でご購入できます
「隣人、それから。 38度線の北」出版社のホームページはこちら
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