対談=森 達也×初沢亜利 隣人、北朝鮮と日本の未来 初沢亜利写真集『隣人、それから。』(徳間書店)刊行を機に|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年7月13日 / 新聞掲載日:2018年7月13日(第3247号)

対談=森 達也×初沢亜利
隣人、北朝鮮と日本の未来
初沢亜利写真集『隣人、それから。』(徳間書店)刊行を機に

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第5回
緩やかな独裁体制へ

森 
 写真集の話に戻ると、初沢さんが今年二月の訪朝時にスマホを没収されて戻ってこなかった。珍しいですね。
初沢 
 スマホを持って入れる状況になってから三、四年ですが、周りの人に聞いても前例がないそうです。何か別の思惑があったのかもしれませんがわかりません。
森 
 独裁政権を維持するためには、ある程度の情報鎖国をすることが必要で、情報がどんどん入ってきたら、今の体制の問題点や南との経済格差がわかってしまう。でも今後、融和が進めば情報鎖国も解かなければいけない。その辺りを政権はどう考えているのかな。これは金正恩に聞くのが一番良いんだけど(笑)。
初沢 
 そうですね。僕もその辺りは気になっています。韓国側は北の体制が崩壊し南主導で民主的な朝鮮半島統一を考えていると思います。そのためには前提として北朝鮮の経済がある程度まで上がってこなければいけない。だから圧力をかけて北を崩壊させるよりは、融和の中で北朝鮮に金を送ると同時に多くの情報を送ることで内部崩壊を狙う、というのが未だにある。僕は必ずしも北の体制について崩壊してもらいたいと思っていません。ただ北側がどう考えているかを想像すると、今は経済発展をし始めて一部の国民に対しては商売をかなり認めています。海外からの物を輸入して販売したり、あるいは不動産業です。所有権はないけれど借地権をまわして儲けるといった状況になっている。今後はもっと中間層が膨らんで地方でも電力事情が回復し、農業インフラ、交通インフラが改善することで全般的に持ち上がった時に、森さんが言うように情報が入ってきて北朝鮮がいかに特殊であるかを人民が気づく可能性は当然あります。でも金正恩政権としては、それでもこの体制を維持していけるという何か確信があるのではないかと思います。

その確信を想像すると、一つは金正恩委員長の政策のおかげでアメリカとの朝鮮戦争が終結し我々の生活を豊かにしてくれたと人民が思う可能性がある。もう一つはクーデターが起きることはもはや考えにくい程の建国以来の徹底した相互監視体制が草の根まで行き届いていることも考えられます。これは僕の憶測ですが、北朝鮮でもスマホが一気に普及しましたので、かえって管理しやすくなったのかも知れません。軍部が、あるいは市民がクーデターを起こして崩壊へ至る可能性があり得るけれど、金正恩政権はそれを充分にわかっていて、それでも生活レベルが向上すれば人民は満足すると判断しているのではないでしょうか。
森 
 緩やかな独裁体制にソフトランディングする。そんなシミュレーションを金正恩はしているのかもしれない。
初沢 
 今回の米朝会談を受けて、北朝鮮内の金委員長への評価はものすごくあがったと聞いています。僕が意外だったのは、二〇一一年末に総書記が亡くなり、二〇代の金正恩氏への権力の移行が拍子抜けするくらいスムーズだったことです。二代目に移行する時は数十年間かけて少しずつ地位をあげて最終的には世襲ではなく、金正日という人間がたまたま次のリーダーにふさわしかったと人民に説明しました。それが今回は何の説明もなく当たり前のように若きリーダーに引き継ぎ、そして人民も何も言わなかった。そこで世襲が完成したと思います。金正恩政権に変わって、我々は発展していくと不思議な自信を人民は持ち始めている。だからどれくらい情報が入ってくることで変わっていくのか。でも既に情報は入っていますよ。地方に至るまで韓国映画やドラマを見ている状況です。
森 
 それが見つかったらすぐに銃殺されるとの報道も日本にはあります。
初沢 
 銃殺されるかは諸説ありますが、時期によって取り締りが強い時とそうではない時があるようです。でも取り締る側も見ているのである程度は野放しなようです。ただアメリカの北朝鮮への敵視政策ゆえに先軍政治にならざるを得ないと人民に説明してきたので、それが今回大きく変わるとすれば、ある種の権威が落ちていくのではないかとの見方をする人もいます。米朝関係が国交正常化までいくかはまだまだわからない。困難さの一理由はむしろ政権交代のあるアメリカの方にあって、金正恩政権下の北朝鮮側は一貫しています。韓国、アメリカの次期政権によっては厳しい対応をとる可能性もあります。そのリスクを考えた時に簡単には核を手放せないのは理解できますよね。
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この記事の中でご紹介した本
隣人、それから。  38度線の北/徳間書店
隣人、それから。 38度線の北
著 者:初沢 亜利
出版社:徳間書店
以下のオンライン書店でご購入できます
「隣人、それから。 38度線の北」出版社のホームページはこちら
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