永遠の不服従のために  辺見庸アンソロジー 書評|辺見 庸(鉄筆)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2016年10月14日 / 新聞掲載日:2016年10月14日(第3160号)

永遠の不服従のために  辺見庸アンソロジー 書評
情況に対峙する言葉 を織りなおすために

永遠の不服従のために  辺見庸アンソロジー
出版社:鉄筆
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いま、私たちに必要なことは、安易な希望を語ることではなく、正確に情況を分析し、絶望と怒りのなかにまずは深く身をうずめることなのかもしれない。本書を読んで、その思いを強くした。

本書は主に二〇〇〇年代前半に著者が発表したテクストをまとめた抵抗三部作――『永遠の不服従のために』、『いま、抗暴のときに』、『抵抗論』――からのアンソロジーに、新たな序文とあとがきを加えたものだ。九・一一同時多発テロ、アフガニスタンとイラクへの米国などの軍事攻撃、それらに参加する日本(有事法制やテロ特措法などの成立)、朝鮮民主主義人民共和国との緊張激化と国内の排外主義・差別の高揚など、二一世紀初頭の情況にテクストは正面から対峙している。

辺見が苛立ち、身をよじらせながら強調していたのはファシズムの形を変えた到来だった。「新しいファシズムはかならずしも強圧的ではなく、『公共の福祉』の名の下に人びとに柔らかな合意をとりつけ」(一三六頁)ながら、「異論、反論を許さない空気」(一二五頁)とともに進展している。また、それは「民主主義的にコーティング」(一七五頁)され、「人々のさりげないものいいに、戦争の文脈」(一一七頁)を隠しもっている、と。

これらのテクストは新鮮さとアクチュアリティを失わない。辺見の批判が現在の世界および日本のファシズム的情況に深く突き刺さっているからだ。秘密保護法や安保法の成立、極右政権の長期化、「従軍慰安婦」問題の「最終解決」の日韓合意、東アジアの軍事的・政治的緊張の高まりなど、この数年の現実をみれば、辺見が指摘していた問題はさらに悪化し広がっている。また、天皇の「お言葉」や「お気持ち」への共感の広がり、そして、リオデジャネイロで日の丸を背負い、「君が代」を歌うメダリストたちへの熱狂。今年の夏に見聞きしたこれらの出来事のなかにも、国家を愛する「さりげないものいい」があふれ、戦争へつなげられる回路は淡々と用意されていた。

辺見の批判は時の政権だけでなく、それに抗する人びとやマスメディアの「転向、裏切り、日和見、反動」(一七二頁)にも向けられていた。「抵抗」する人びとがこれまで保持してきたはずの前提を次々と放り投げ、忘却し、後退し続けていること。体制内化した野党や労働運動、マスメディアへの辺見の批判はとても激しい。昨年の安保法案反対運動では「戦後日本の平和を守れ」というスローガンが流布したが、ベトナム戦争やイラク戦争への積極的な参加や沖縄の軍事化の歴史をふまえれば、このスローガンは「転向」の上積みだったと思う。この一年間、私も「デモに加わってさえ、ひどい疎外や屈辱や孤立感を覚え」(一九九頁)てしまった。その理由は「不服従と服従はいま、なにかにつつがなく包摂された“同義語”かもしれない」(一六頁)という、辺見が一〇年以上前に見ていた日本社会の変化だったのだろう。

私たちはできあいの言葉で怒りや可能性を表現するのではなく、「批判」や「反対」のなかにさえあらわれる「身体的同調」からできるかぎり距離をとり、言葉を織りなおすことを求められている。そのために何を参照できるだろう。所収テクストの多くが雑誌連載だったためか、本書が過去の民衆闘争の経験にほとんど触れていないことが気になった。辺見の言葉は、現在に対する凄まじい強度を保持しているが、民衆の抵抗史へと回路を積極的に開くことを避けているように感じる。人びとが「同調」とは異なる形で共鳴しあい、社会を変える力となった経験から、手遅れではあったとしても、この困難な状況を打開する道は開かれうるのではないか。歴史に立ちかえりながら続けられてきた辺野古や高江での運動を思い浮かべるとき、そんな読後感が残る。もう一つの世界は、深い幻滅のなかにこそ胚胎している。
この記事の中でご紹介した本
永遠の不服従のために  辺見庸アンソロジー/鉄筆
永遠の不服従のために  辺見庸アンソロジー
著 者:辺見 庸
出版社:鉄筆
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