ミッテラン  カトリック少年から社会主義者の大統領へ 書評|ミシェル・ヴィノック(吉田書店)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2016年10月14日 / 新聞掲載日:2016年10月14日(第3160号)

ミッテラン  カトリック少年から社会主義者の大統領へ 書評
ひとりの政治家を20世紀フランス政治史のなかに位置付ける

ミッテラン  カトリック少年から社会主義者の大統領へ
出版社:吉田書店
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フランスにさほど関心がなくとも、ミッテランという名前を知らない人は少ないだろう。ミッテランは1981年から95年までの2期14年間、史上最も長くフランス大統領を務めた政治家である。本書は、フランス近現代史研究の碩学ヴィノックが著したそのミッテランの評伝である。ヴィノックは、彼の長い政治キャリアのほぼ全時期を扱い、ミッテランへの冷静な態度を崩すことなく、彼の政治をフランス政治史に位置付けようとする。ミッテランは権力を望み、その座を得るための振る舞いは日和見、政治屋と揶揄された。はたしてミッテランは日和見だったのか。文学に通じ哲学的な修辞を操り神秘的な風貌を持つミッテランは、評価が非常に難しい政治家である。だが本書を紐解けば、ミッテランという政治家のみならず、20世紀のフランス政治史を学ぶことができるだろう。

まずミッテランの生涯を簡単に押さえておきたい。フランス南西部のシャラント県の保守的な家庭に生まれ育ったミッテランは、カトリック教育を受け右派的な思想を抱き、ヴィシー政権下ではささやかな職も手に入れたが、やがてレジスタンスに参加する。終戦後から1950年代まで、ミッテランは中道右派の政治家だった。大政党ではなく小さな政党に所属し、多数派工作が頻繁におきた議会政治において、彼の立場はキャスティングボートを握りやすく、第四共和制期のミッテランは数多くの内閣で閣僚を歴任した。中道左派の立場に変わっていた65年の第五共和制最初の大統領選挙では左派陣営の統一候補に名乗りを上げ、71年に社会党入党以降は指導者として左派陣営全体を引っ張っていく立場となる。そして81年に遂に、大統領に当選するのである。

本書の副題にあるように、このようなミッテランの政治的軌跡は、右派から左派への移行と数多くの挫折にも関わらず、不屈の精神で権力の頂点を目指した政治家の成功の物語である。ヴィノックは、ド・ゴールへの反発や植民地問題など幾つもの要因が絡み合い、ミッテランの右から左への移行が段階的に進んだと見る。ミッテランは最初から左派のリーダーでも社会党の指導者だった訳でもない。であれば、次のように問うことはそれほど不当ではあるまい。ミッテランはいかなる意味の「左派」だったのだろうか。これは論難ではなく、ミッテラン政治の歴史的位置づけを考えるに重要な論点である。なぜならばミッテランは、第五共和制そのものを批判したが大統領当選後は体制を見直すこともなく、企業の大規模な国有化といった社会主義的政策を実施するも、この政策は行き詰まり右派政権と大差のない政策を取らざるを得なくなったからである。つまりミッテラン以降、右派も左派も実質的には差のない政治へとフランスは突入するのである。

ミッテランは、1974年の大統領選挙で「生活を変える」をスローガンとした。ミッテランの大統領当選は歴史的で、彼の意志の貫徹の結果だった。個人の意志は歴史をも変えたのである。だが個々人の生活は変わったのだろうか。ミッテラン政権は、政治で生活は変わらないことを証明してしまったように見える。取りえる政策の幅は右派政権も左派政権もさほど変わらない。これは政治的安定であるのと同時に政治の消滅でもある。なぜならば、政治が人々の生活を変えないのであれば、人々は政治に何を期待すればよいのだろうか。人々が自分達の生活を変えることを望むとき、どこにその希望を託せばよいのか。ミッテランの勝利は、皮肉な形での政治の敗北につながっている。

本書が描くミッテランの長い政治人生から、多くの問題が万華鏡のように浮かび上がる。政治家の公私の区分、政治の可能性、左派と右派との分岐点と相違点、政治体制の安定等。ヴィノックが歴史的で偉大な政治家に光を当てた時、学ぶべきものとして浮かび上がらせたのはミッテラン自身の人生というよりも、彼の人生の余りの多くの断面が引き起こす乱反射なのである。(大嶋厚訳)
この記事の中でご紹介した本
ミッテラン  カトリック少年から社会主義者の大統領へ/吉田書店
ミッテラン  カトリック少年から社会主義者の大統領へ
著 者:ミシェル・ヴィノック
出版社:吉田書店
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