アイルランド革命 1913-23 第一次世界大戦と二つの国家の誕生 書評|小関 隆(岩波書店)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年7月14日 / 新聞掲載日:2018年7月13日(第3247号)

南ア戦争縁の人々を軸に描く 
分断されたアイルランドの独立戦争

アイルランド革命 1913-23 第一次世界大戦と二つの国家の誕生
著 者:小関 隆
出版社:岩波書店
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分断国家は世界史上、数多い。私たちの近隣には朝鮮半島両国がある。中国は台湾を自国領だと主張し、台湾は「中華民国」であって「中華人民共和国」とは別物だとの立場だ。ヴェトナムとドイツがかつて、それぞれ南北、東西に分断されていたのは記憶に新しい。過去に東パキスタンはバングラデシュとして独立。近年はスーダンから南スーダンが分離独立した。著者は、アイルランドも英国領・北アイルランドと切り離された分断国家だと指摘する。

アイルランド島は1801年に英連合王国に組み込まれたが、島の4地方のうち、プロテスタントの多い北部アルスター地方の対英統合派と、カトリックが主流のレンスター、マンスター、コナハトの3地方を中心とする自治派が対立。次第に先鋭化し1913年、それぞれ準軍部隊を組織し、翌14年に勃発した第1次世界大戦と並行するように武力闘争に突入する。この年からアイルランド独立までの35年間、断続的に独立戦争が続いた。
この過程を本書は「革命」と呼ぶ。評者は「アイルランド独立戦争」の方が的確だと思うが、「独立戦争」の用語を題名に用いた先行書が日本で何点か刊行されていることや、かつ現地の研究者らが「革命」を使っていることもあって、著者は「アイルランド革命」を題名としたのではないかと想像する。ともあれマルクス・レーニン主義的革命ではない。

英国とアイルランドの近現代史を専攻する著者は、第1次大戦や、対英独立に繋がるアルランドの内戦を、旧英領南アフリカで起きたアングロ・ボーア戦争(1899~1902)に因縁のある3人の人物を絡ませながら縦横に物語る。南ア戦争に対し反戦の声を上げたアイルランド人ウィリー・レイモンド、英国外務省の領事職を得て南アに赴いたアイルランド人ロジャー・ケイスメント、冒険家で南ア戦争に参戦した英国人アースキン・チルダーズである。本文にしばしば登場するウィンストン・チャーチル(後の英首相)も特派員として南ア戦争を取材中、捕虜になり脱出、生還して名を売り、政界への足掛かりをつかんだ。彼を加えれば南ア戦争に縁のある主要な登場人物は4人になる。

レイモンドには、英植民地帝国に抑圧されたボーア(オランダ人らカルヴァン派プロテスタントの南ア移住者)に、アイルランド人として共感するところがあったのだろう。

さまざまな曲折を経てケイスメントは、事もあろうに英軍が戦っていた敵国ドイツと策謀、アルランドを独立に向け蜂起させようと1916年、アイルランド島に潜入するが、蜂起の数日前に逮捕され、大逆罪で処刑されてしまう。復活祭に重なったこの「イースター蜂起」は、本格的な独立戦争の起爆剤となる。レイモンドは英軍少佐として参戦した対独戦争で17年戦死。チルダーズは22年、反政府軍(「アルランド共和国軍」)に入隊、逮捕され同年、処刑された。

武闘は共和国樹立を目指す対英独立戦争に発展。その結果、アルスター9州のうち6州と、残る3州および他3地方を合わせた「南部」26州の分離が決定的になり、北部6州は後に北アイルランドになる。一方、南部は英連邦内の「自由国」(自治領)となり、内戦を経て1937年に実質的な共和国として独立。49年、英連邦から離脱した。

独立派の中心だったシン・フェイン党、その武闘部門「アイルランド共和軍」(IRA)についても克明に描かれている。その記述は、1960年代末から世紀末にかけ北アイルランドで続いたアイルランド併合派IRAによるテロリズムの歴史的背景を理解するのに役立つ。英政府の植民地政策の冷徹さや狡猾さを読み取ることもできる。アイルランド史は米植民地プエルト・リコ史とともに、沖縄問題を考えるうえで参考になるだろう。

老婆心ながら注文を付ければ、片仮名言葉が多すぎること。例えば「ダーティー・ウォー」は定訳「汚い戦争」でよい。「シンボライズする」は「象徴する」で済む。ただでさえ片仮名の固有名詞だらけの内容だけに、不要な片仮名語の多さには辟易する。また地名についても丁寧な説明が必要な箇所が少なくない。一例を挙げれば、第1次大戦の戦地「ガリポリ半島、スヴラ湾」は、それがどこにあるのか明記すべきだ。

面白かったのは、チルダーズらがドイツからアイルランドへ密輸する武器を買い付ける際、武器商人に「我々はメキシコ人だ」と突拍子もない嘘をついたこと。メキシコは当時、革命戦争(1910~17)のさなかにあり、政府軍、反乱軍、人民軍のいずれも武器を必要としていた。この史実を踏まえれば、「メキシコ人」を名乗ったのは、そう悪くもない思い付きだったと言えそうだ。武器商人も澄まして受け入れ、商談は成立した。
この記事の中でご紹介した本
アイルランド革命 1913-23 第一次世界大戦と二つの国家の誕生/岩波書店
アイルランド革命 1913-23 第一次世界大戦と二つの国家の誕生
著 者:小関 隆
出版社:岩波書店
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