女性記者・竹中繁のつないだ近代中国と日本ー一九二六〜二七年の中国旅行日記を中心に 書評|山﨑 眞紀子(研文出版)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年7月14日 / 新聞掲載日:2018年7月13日(第3247号)

活動を多面的に整理しその感性を立体的に浮かび上がらせる

女性記者・竹中繁のつないだ近代中国と日本ー一九二六〜二七年の中国旅行日記を中心に
著 者:山﨑 眞紀子
出版社:研文出版
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戦前の日本で中国について記事を書いた新聞記者は、決して少なくない。中には尾崎秀実のような優れたジャーナリストもいた。しかし女性記者で中国への深い洞察を行い得た者は、あまり例を見ない。東京朝日新聞の記者であった竹中繁は稀有な一人である。

本書は、竹中繁が一九二六年から二七年にかけて行った中国旅行の記録を中心として、関連する資料を集めることで、竹中が中国で何を見聞し、それをどのような記事として発表したかを、立体的に整理したものである。本書の中心となるのは、旅行中に竹中が書いた記録である。本書の共著者である五人の研究者が、遺品の中に残されていた肉筆の手帳を整理して活字化した。おそらくは公開を前提としていなかった記録だからこそ、荒い記述もあるものの、生々しい情感が伝わってくる。共著者五人は、その記録に精密な注釈をつけ、竹中の記録を歴史的に位置付けるとともに、そこに含まれる内容の広がりを示して見せた。

本書のもう一つの中心は、竹中が中国旅行に基づいて書いた記事である。旅行中に寄稿した記事のみならず、旅行後に各種雑誌などに書いた記事も収録した。これらの記事を非公開の旅行記録と合わせて読むことで、竹中が旅行の経験の中から何を日本に伝えようとしたかが明白になる。さらに本書には、竹中繁の伝記、中国旅行の詳細な解説、竹中繁と深い関係にあった人々の紹介、竹中宛書簡の一部、さらには竹中繁の孫と、竹中と極めて親しい関係にあった市川房枝の養女を囲む座談会の記録が加えられ、全体として、竹中繁の活動を多面的に捉えるとともに、彼女の肉声を感じとることができる仕掛けとなっている。

竹中繁の中国旅行記が出色なのは、中国女子教育への深い関心と鋭い洞察のゆえである。そもそも中国語ができなかった竹中は、中国で女子教育に携わった経験があり、当時は日本で中国留学生向けの教育を行っていた服部升子と共に旅行をした。二人は中国の教育事情の視察を課題とした。各地で教育機関を訪問し、とくに女子教育の実態を見聞している。その中から、新しい時代にあって目覚めつつあった中国女性の息吹を見出した。例えば、旅行から帰った後の記事の中で、「支那では男子も一緒になって婦人を引き上げて行き、女子もまたそれに添ふて十分自重してゐるところに、誠によい傾向を発見することが出来るんではないでせうか」と書いている。竹中が中国女性の地位向上を強く感じ取った背景には、一九二六年という時代がある。それは国民革命という中国社会全体を近代国民国家へと変革させる歴史的事件の最中であった。日本国内において、国民革命は中国の赤化を招くのではないかという不安の声があり、竹中自身も不安を感じていたようであったが、あえて革命の中心地である広州を訪ね、実際に革命の状況、とくに国民革命下における女性の地位を見聞した。広州ではさらに、黄埔軍官学校まで見学し、軍人養成機関にも女性が入っていることを目睹した。そうした経験に基づいて、中国で起きている革命は、赤化といったイデオロギーにとどまるものではなく、広範な社会的変革をともなっていること、とくにその中で女性の地位が大きく変わりつつあることを見出した。

もちろん、竹中は中国女性の積極的な面だけを過大に見ていたと、現在の目から批判することは可能である。しかし、中国への蔑視が当たり前であった当時のジャーナリズムにあって、中国社会の変革を正面から受け止めた感性は特筆に値する。本書は、竹中繁の活動を多面的に整理することで、そのような戦前の日本のジャーナリズムにおいて特異と言うべき竹中の感性を、立体的に浮かび上がらせることに成功している。

最後に付言しておきたいのは、本書が、日本文学研究者、中国歴史研究者、中国文学研究者の共同研究の成果であることである。竹中繁という存在が、近年稀に見る共同研究の成功を呼び込んだと言えるだろう。
この記事の中でご紹介した本
女性記者・竹中繁のつないだ近代中国と日本ー一九二六〜二七年の中国旅行日記を中心に/研文出版
女性記者・竹中繁のつないだ近代中国と日本ー一九二六〜二七年の中国旅行日記を中心に
著 者:山﨑 眞紀子
出版社:研文出版
以下のオンライン書店でご購入できます
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