新制大学の誕生 上 書評|天野 郁夫(名古屋大学出版会)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2016年10月14日 / 新聞掲載日:2016年10月14日(第3160号)

新制大学の誕生 上 書評
大学改革の羅針盤として 高等教育史研究者の必読書

新制大学の誕生 上
出版社:名古屋大学出版会
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本書は、戦時から戦後にかけて行われた学制改革の動向及びその議論を具に検証することで、新制大学がどのような経緯で誕生したのかを明らかにすることを目的としている。背景には、長い歴史を有する自国の大学の歴史を振り返ること無しに、未だ欧米諸国に理想の大学像を求め、小手先だけの改革を繰り返す現在の日本の大学改革に対するはがゆさがある。そこには、その場しのぎではない建設的な大学改革を計画し実行するためには、日本の大学が抱えてきた問題の源泉を歴史的にしっかりと踏まえることが不可欠であるとする著者の強い思いがある。本書(上・下巻)は、第Ⅰ部の戦時体制期、第Ⅱ部の戦後の高等教育改革期、そして新制大学の誕生を描いた第Ⅲ部から成る。全9章737頁から成る大著で、巻末には人名・会議・団体名索引と学校・大学・研究所名索引が付されている。

本書には、戦後の高等教育改革が“何を成し何を成し損ねたのか”という大きな問いが根底に流れており、読みすすめていくと、戦後の高等教育改革が如何に戦前の学制改革論議の延長線上においてすすめられていったのかがわかる。戦後の混乱の中、多くの教育機関がその水準の差異に関わりなく一挙に大学に昇格して新制大学が発足した。新学制発足に向けた準備が不十分なまま制度だけが先行した結果、新制大学発足後も教育の質や設備等の面において大学間で格差を抱え続けることとなった。それだけでなく、戦前の学制改革について議論してきた人物が引き続き教育刷新委員会委員として戦後の高等教育改革に携わるなど、戦前から戦後における人的連続性も加わり、戦後も戦前の学制改革論議を引きずったまま改革がすすめられることとなった歴史的経緯が明らかとなる。本書を精読した読者は、戦前から積み残されたこうした様々な課題が現在の大学に如何に通底しているかを知ることとなるのである。
しかし、“何を成し何を成し損ねたのか”という戦後の高等教育改革に対する評価について、著者は第二次アメリカ教育使節団・教育刷新委員会・文部省における新制大学発足後の報告書等を紹介するにとどまり、自身による評価をあえて明記してはいない。この禁欲的ともいえる姿勢は、自身の意見を全面に出さずに新制大学発足までの歴史を丹念に追うという手法にも貫かれており、この“問い”に対する回答はそのまま著者から各々の読者に投げかけられることとなる。
“何を成し何を成し損ねたのか”。日本の大学が歩んできた歴史に対してその善し悪しをめぐる評価を抜きにして言えば、新制大学は制度的にはアメリカの高等教育システムを模して発足することができた。しかし、大学教育を担う教員(組織)・土地建物・設備・教育内容等、その内実は旧態依然としたままであったため、旧制以来のドイツモデルからアメリカモデルへと転換することができなかった。この理念と実態の乖離は今もなお日本の大学に影響を与え続けている。大学がもはやフンボルト的な学問教育共同体ではあり得なくなった今、教育と研究の一致の理念が弱体化したことに対する「大学教員の自己規定のゆらぎ」と「大学教育の動揺」(広田照幸編『シリーズ大学5 教育する大学―何が求められているのか』2013年 岩波書店)もその影響の一つであると言えよう。

本書の中で著者は、新制大学の発足は大学としての出発ではなく大学への出発であったと指摘している。ドイツモデルでもアメリカモデルでもない、“日本モデル”とでもいうべき日本の大学は今なお変化し続けている。“何を成し何を成し損ねたのか”、その評価も含めこの問いを私たちに鋭く突き付けている本書は、高等教育史研究者の必読書であることは勿論、これからの大学改革の羅針盤として大学関係者にも必読の一冊である。
この記事の中でご紹介した本
新制大学の誕生 上/名古屋大学出版会
新制大学の誕生 上
著 者:天野 郁夫
出版社:名古屋大学出版会
以下のオンライン書店でご購入できます
新制大学の誕生 下/名古屋大学出版会
新制大学の誕生 下
著 者:天野 郁夫
出版社:名古屋大学出版会
以下のオンライン書店でご購入できます
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