八重山暮らし(最終回)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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八重山暮らし
更新日:2018年7月24日 / 新聞掲載日:2018年7月20日(第3248号)

八重山暮らし(最終回)

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根が板状のサキシマスオウノキが現れた。古来より島の森は神の庭だ。豊満たる八重山の自然と出逢う。
(撮影=大森一也)
島の静寂


シーカヤックで海を歩く。

西表島の無人の浜、島の深奥へとくい込む湾を目指して。そこにかつて、独り自給自足の暮らしを送る男がいた。森をさまよい果実を頬張り、日だまりの珊瑚礁をたゆたう。大潮の干潟を風となって巡り、自由自在に魚や貝を捕った。

川辺のハブにもおののくことなく手を差しのべ、遠くの岩場に放つ。しとやかな仕草は仙人を思わせた。老境に達した彼に、ある時、何故そのような生き方を選んだのか訊いてみた。
「せいじゃく」

寡黙な男が、この時だけは直ぐさま言葉を発した。

島の周囲が130㎞の西表島は沖縄本島に次ぐ大きな島だ。海岸まで密林の山が迫り、港と港を結び半周にわたって外周道路がある。残りの半周に舗装された道はない。島の裏側には手つかずのままの山と川、海と空が忽然と在る。

自然界を切り裂く物が無い。それだけで万物はほとばしるように生気を発し奏で合う。高やかな歓喜に包まれた瞬間、星空を絡め取る無粋な光線、ざわついた電子音の吹きだまりから這い出たことを知る。むき出しのこころ、その柔らかなひだから混じり気のない静けさが沁み出す。冴え冴えとした心地が湧きあがる。

島の静寂。

それ以上のなくてはならぬ、があるのか…。瑠璃色の波間から、しわがれた囁きが今もふいに聞こえる。 
(やすもと・ちか=文筆業)
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