【横尾 忠則】死にかけの生命感、ウソから出発した現実描きたい|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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日常の向こう側ぼくの内側
更新日:2018年7月24日 / 新聞掲載日:2018年7月20日(第3248号)

死にかけの生命感、ウソから出発した現実描きたい

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2018.7.9
 〈ニューヨークの画家達10人位と共通のスタジオを借りて、それぞれ思い思いの絵を制作する。ぼくをフォローしてくれる画家はニューヨークで名の知られている女流画家だけれど、彼女はジェニファー・バートレットかな、と想像するが彼女ではない。彼女は素早く描くが、どことなくぼくの絵に似ている。他の画家もぼくと同じ具象画だ。同じ傾向の画家の中で突出した絵を描かなければならない〉とそんな寝ても覚めても絵が頭から離れない夢を見る。

同じ町内の加藤剛さんが先月18日に亡くなっておられた。ぼくより上かと思っていたら2歳年下だった。1年ほど前風月堂で会った時は如何にも新劇俳優というボヘミアン風だった。

同じ加藤がらみで同級生の加藤はじめ君が死去したという報告を受ける。今のところ郷里に帰ると会う友人のひとりは「わしは死ねへんよーな気がする」と言うが、皆んなの健康は自分の健康でもある。

「美術手帖」のブログでピカソについて語らされるが、取材に10人来訪。無駄な人件費だ。

野川のビジターセンターの七夕の笹竹にぶら下った短冊のメッセージを紹介しよう。〈あいどるになれますように〉〈全ての人に食料が届きますように〉〈家族が仲良くくらせますように〉〈弟が長生きしてほしいです〉〈友達がもっと欲しい〉〈大金持になれますように〉〈パパがえらくなりますように〉〈死んだら生きかえりますように〉。子供の切実な今日の社会的な願いがリアルに伝わってくる。

2018.7.10
 取材が終ったあと急に絵が描きたくなる。ピカソについて語ったあと、ピカソのエネルギーが身体の中で沸騰し始めたのか、猛然と絵の破壊が始まった。

2018.7.11
 〈郷里の文化堂書店の若奥さんに久し振りに町で会う。「明日いらっしゃい」と言われて夢の中の「明日」に伺う。若奥さんは夢の中では評判の美人ということになっているけれど、現実はまあそこそこ。店のレジにいた彼女は夢の中だから評判の美人で登場。ところがぼくのことが認識できないらしく、英語でペラペラ話す〉という夢。

2018.7.12
 昨夜は朝の4時まで、おでん外出。朝9時にまたお出掛け。

ソニー・ミュージックアクシスが西城秀樹のベストアルバムを出すので、秀樹家から出てきたというポスターを復刻して2枚組CDを買った人にプレゼントしたいが、許可されたしと言ってくる。

2018.7.13
 〈ヌード画家連盟という団体があるらしく、いつの間にか加盟させられている。その会合に顔を出すが知人はひとりもいず、居心地の悪さ〉で目が覚める。

〈広い国際会議場の2階の回廊から1階の会議場を見下している時、中央のテーブルに座っている金正恩がいきなり、2階のぼくに向って「ヨコオちゃん」と声を掛けた。ぼくも驚いたが、会議の出席者一同も振り返ってザワザワし始めた。会議の始まる寸前に金正恩に会ったらしいのだが記憶は夢のようでよく覚えていない〉という夢を見る。

常に来客が多いが、その大半が手土産に甘い物を持ってくる。甘い物は「×です」とツイッターに書いているけれど効果なし。もし頂けるなら甘い物の代りに、〈原稿用紙〉〈シャンプー〉〈髭剃カミソリ〉〈キャットフード〉〈メダカの餌〉〈栄養剤〉〈週刊誌〉〈パテックス〉〈ティッシュペーパー〉などの方が安いし、実用的でこちらも嬉しい。

2018.7.14
 早朝、大岡昇平さん『野火』読了。何人かの空襲日記やマッカーサーの自伝は読んだことはあるけれど、戦記物は初めて。最近こんな面白い小説は読んだことがない。強烈な戦場の音と臭いなど肉体感覚全開。小説は戦場のピカレスクって感じ。この小説の持っている不思議な死にかけの生命感が絵に描けないものかと思う。

そんなウソから出発した現実を描いてみたい。この小説のようなドンデンガエシを絵で描くべきだ。では絵のドンデンガエシとは? 過去をもう一度取り戻してフィクション化することだ。もう少し大岡文学を吸収したくなって『俘虜記』を買う。

広川泰士さんが30年前に撮った同じ場所での近年との2枚の写真を届けてくれる。両方共自分でありながら自分でない。写真は時間の芸術だ。

店から出ると火炎が迫ってくるような熱気に一瞬たじろぐが、気を取り直して子供の頃炎天下でコブナ獲りに熱中したのを想い出すと急に快適になってきた。ジリジリ焼ける肌に不思議な心地よささえ覚える。
同じ場所で左が30年前 写真:広川泰士さん

2018.7.15
 体力をためすつもりで午後の暑い頃を見計って公園へ。全身が呼吸器になったように熱気を吸い込んでいる感じだが、慣れてくると大騒ぎするほどでもない。特に老齢者に熱中症警報が出ているが、今年はまだなっていない。

夕方、マッサージへ。施術中、躰からエゴが抜けていくのが心地よい。
(よこお・ただのり=美術家) 体力をためすつもりで午後の暑い頃を見計って公園へ。全身が呼吸器になったように熱気を吸い込んでいる感じだが、慣れてくると大騒ぎするほどでもない。特に老齢者に熱中症警報が出ているが、今年はまだなっていない。

夕方、マッサージへ。施術中、躰からエゴが抜けていくのが心地よい。
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