日本探偵小説を知る 150年の愉楽 書評|押野 武志(北海道大学出版会)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
マイページで記事のブックマーク!
ログイン
マイページ登録

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは マイページ

読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年7月21日 / 新聞掲載日:2018年7月20日(第3248号)

日本探偵小説を知る 150年の愉楽 書評
探偵小説の歴史と最新の研究をまとめる

日本探偵小説を知る 150年の愉楽
著 者:押野 武志、谷口 基、横濱 雄二、諸岡 卓真
出版社:北海道大学出版会
このエントリーをはてなブックマークに追加
探偵小説は過去の名作のトリックなどを踏まえて新作を生み出すので、自己言及的なジャンルといわれ、評論を書く作家は珍しくない。またアマチュアの活動も盛んで、商業出版とは別のところで創作、評論を行っている探偵小説マニアも多い。探偵小説の歴史と最新の研究をまとめた本書は、大学の研究者を中心にしながらも、作家や同人誌をメインにしている評論家などがコラボすることで、刺激的な論点を導き出している。

第一部「歴史の視座」は、一八六八年から二〇〇〇年以降までを六つに区切り、探偵小説の歴史を概観している。六人の論者は単に探偵小説史を追うのではなく、純文学との関係や様々な論争を俎上に乗せ、探偵小説が日本の文学と文化に与えた影響に迫っている。

小松史生子「ロマンの源流――明治期探偵小説の萌芽と挑戦」は、新聞の連載小説として人気を集めた明治中期の探偵小説を支えたのが女性読者だったという新たな視座を示した。谷口基「黄金時代のディレンマ――探偵小説か、文学か」は、甲賀三郎と木々高太郎による「探偵小説芸術論・非芸術論」が純文学界と探偵小説界にもたらした影響を論じている。押野武志「〈戦後文学〉としてのミステリ」は、坂口安吾、天城一ら松本清張以前の作家にも、戦前の批判や戦後社会を問い直す視座があったことを明らかにしており、探偵小説に区分としてよく用いられる「清張以降」との考え方に一石を投じていた。

これらの論考が探偵小説の歴史を論じたとするなら、一九八七年の綾辻行人のデビューから始まる「新本格」と呼ばれるムーブメントが、映画、アニメ、ゲームを巻き込みながらジャンルを変質させていったプロセスをまとめた諸岡卓真「『新本格』の登場とジャンルの変容」、二〇〇〇年代に日本を覆っていた社会的な「空気」がミステリ作品に与えた影響を指摘する井上貴翔「〈拡散〉と〈集中〉をこえて」は、ミステリの最前線に切り込んでいた。

諸岡と井上が取り上げた作品はすべてアルタイムで読んでいたのだが、それでも気付かなかった論点も多く、思わず膝を打つことも少なくなかった。

第二部は、五人の論者が得意分野で論考を発表しているので、読みごたえがある。特に殺人などの陰惨な事件を扱わない「日常の謎」が、学校で起こる事件を描くようになったことで、内在化していた歪みと学校内での探偵行為がはらむ問題点を浮上させたとする諸岡卓真「『日常の謎』をこじらせる――相沢沙呼『午前零時のサンドリヨン』論」、近年、推理が弱いと評されるミステリが増えているが、それにはビック・データと情報検索システムの普及がもたらした「知」の変容があるとする渡邉大輔「検索型からポストヒューマンへ――メディア環境から見た一○年代本格ミステリのゆくえ」は出色だった。

本書には力作が収録されているが、関係する作品をピックアップし、順に並べただけの論考も散見された。歴史の記述にも、作品分析にも、作品の収集と分類は不可欠なのでデータを並べただけの論考を批判するつもりはない。ただ、もっと分析的な論考もあるので全体が統一されておらず、コンセプトが十分に共有されていないように見えてしまったのだ。また明治なら柳田泉、伊藤秀雄、それ以降も江戸川乱歩、中島河太郎らが探偵小説史にアプローチしているが、本書には従来の“史観”を覆すような視点がなかった一方、入門書としては専門的すぎるので、どんな読者を想定していたのかも分かりにくかった。

ただ本書に収録された論考には、戦前から最新のミステリまで、事前に知っておくとより楽しめる情報が詰まっているので、好きな作品を深く理解したい人にも、創作や評論を書きたいと思っている人にも、重要な示唆を与えてくれるのは間違いない。
この記事の中でご紹介した本
日本探偵小説を知る 150年の愉楽/北海道大学出版会
日本探偵小説を知る 150年の愉楽
著 者:押野 武志、谷口 基、横濱 雄二、諸岡 卓真
出版社:北海道大学出版会
以下のオンライン書店でご購入できます
「日本探偵小説を知る 150年の愉楽」出版社のホームページはこちら
このエントリーをはてなブックマークに追加
末國 善己 氏の関連記事
読書人紙面掲載 書評のその他の記事
読書人紙面掲載 書評をもっと見る >
学問・人文 > 評論・文学研究 > 日本文学研究関連記事
日本文学研究の関連記事をもっと見る >