連載 演出と自発性 ジャン・ドゥーシェ氏に聞く65|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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ジャン・ドゥーシェ氏に聞く「映画/映画作家/映画批評」
更新日:2018年7月24日 / 新聞掲載日:2018年7月20日(第3248号)

連載 演出と自発性 ジャン・ドゥーシェ氏に聞く65

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演出中のドゥーシェ

HK 
 ドゥーシェさんがリヴェットの映画をそれほど好んでいないのを承知の上で、「自発性」という考え方についてお聞きします。リヴェットと自発性という考え方は、映画批評の中に何度も登場しています。例えば、パスカル・ボニゼールはリヴェットの映画は、関わる人が自発的に映画を作っていく必要があったと述べています。
JD 
 自発的な映画とは、リヴェットが目指していたものです。しかし、私の考えでは、成功することはありませんでした。自発性、率直さとは、別のものになっていました。
HK 
 この自発的という表現は、映画を形容するために何度も映画批評の中で使われてきました。例えば、僕が面白いと思ったものでは、『ランジュ氏の犯罪』についてのトリュフォーの一節です。
JD 
 リヴェットとルノワールの自発さは、別の問題です。
HK 
 「『ランジュ氏の犯罪』は、ルノワールの全ての作品の中でも、最も自発的であり、カメラと演技の最も奇跡的な戯れでもあり、真実と純粋な美しさによって最大限に彩られ、優雅さによって物語られる作品である」。トリュフォーはこのように書き残しています。
JD 
 悪くない言い方ですが、議論の余地があります。
HK 
 トリュフォーの言い方には納得できませんか。
JD 
 私が同意するかどうかが問題ではありません。よく作り上げられた考え方です。しかし、ルノワールにおける自発さとは何を指しているのでしょうか。それに関して、少し別の話をしましょう。1978年か79年にフィレンツェで、ルノワールへのオマージュと称してレトロスペクティブ上映が行われました。その際に、アンナ・カリーナがインタビューを受けています。アンナ・カリーナは、ルノワールの映画では演じていないので、劇場での体験を語りました。ルノワールによって演出された、ルノワールの戯曲を演じています。カリーナは、舞台稽古の体験を語りました。カリーナが、ソファーに腰掛けテクストを読みます。読み終わると同時にルノワールは、「いつも通り本当に素晴らしかった。全くもって完璧です。見事な演技です。なので楽しむためにもう一度だけ、今の場面を繰り返しましょう」と言いました。断る理由もないので、カリーナは腰掛けたまま同じ場面を繰り返します。そうすると次にルノワールは、「またしても見事な出来栄えでした。でも、一つだけ別のことを加えて見ましょう。もしよければ、その場面を立った状態で繰り返してくれませんか」と言ったそうです。カリーナは答えます。「ごめんなさい。言わなければいけない台詞がたくさんあるし、座っていたほうが台詞を言いやすいの」。座ったままの状態で再度、同じ場面が繰り返されます。台詞が読み終わるとルノワールは「本当に完璧な出来だった。そうであるからこそ、もし可能ならば、立った状態ならどのようなものになるか気になっています」と似たような言葉を繰り返しました。カリーナの返事は「私は座るわ」というものです。そこへルノワールのアシスタントの女性が割り込み一言、「ルノワールさんは、あなたに立つことを命じているのです」(笑)。これがルノワールでした。表面ではいつも行儀よく振舞っていましたが、最終的には自分の考えを押し通す人です。だからこそ、ルノワールにおける自発さというものは見せかけなのです。
HK 
 そうは言っても、『ランジュ氏』は本当に生き生きとした作品だと思います。
JD 
 それは「生」の観点を兼ね備えた作品だからです。他のルノワールの映画が生き生きとしているのも、彼の映画には生命が根付いているからです。例えば『ピクニック』は、本当に驚くような作品です。私の意見では、今までに世界中で作られた映画の中でも、最も美しい短編映画です。
HK 
 200回以上見ていると公言している作品ですね。講演のテーマにも何度も選んでいます。『ピクニック』に登場する窓は、映画の歴史の中でも最も美しい画面の一つではないですか。 <次号につづく>
(聞き手=久保宏樹/写真提供=シネマテーク・ブルゴーニュ)
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