村山新治、上野発五時三五分 私が関わった映画、その時代 書評|村山 新治(新宿書房)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
マイページで記事のブックマーク!
ログイン
マイページ登録

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは マイページ

  1. 読書人トップ
  2. 書評
  3. 読書人紙面掲載 書評
  4. 芸術・娯楽
  5. 映画
  6. 映画論
  7. 村山新治、上野発五時三五分 私が関わった映画、その時代の書評
読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年7月21日 / 新聞掲載日:2018年7月20日(第3248号)

村山新治、上野発五時三五分 私が関わった映画、その時代 書評
どこまでも丹念で見事な一冊   
2018年の映画本の快挙ともいうべき仕上がり

村山新治、上野発五時三五分 私が関わった映画、その時代
著 者:村山 新治
編集者:村山 正実
出版社:新宿書房
このエントリーをはてなブックマークに追加
昭和の刑事ドラマ『特捜最前線』に「夜間中学殺人事件!」という傑作がある。さまざまな事情を抱えた生徒たちの群像劇に中国残留孤児問題を取り入れ、苦い結末へと至るストーリーだ。また、「真夜中のデッドアングル!」では、東北から上京してきた親子が貧困によって四散。幼い姉弟は盗みに手を染める。

どちらも繁栄から取り残された人生や風景がアクチュアルに切り取られてドラマに作用しており、とくに後者――俯瞰から見渡すように撮影された上野広小路とアメ横商店街のシーンは忘れられない。

これらを演出したのが、村山新治である。1957年、『警視庁物語 上野発五時三五分』で劇映画の監督としてデビューしたのち東映の社会派リアリズム路線で活躍し、斜陽化とともにテレビへ。『特捜最前線』の場合、演出本数のわりに地味な存在だが、その手腕が脚本とマッチするや上記のような逸品を生み出した。監督人生の後半は特撮番組を多く手がけている。

近年は初期の監督作――刑事ドラマの源流となった「警視庁物語」シリーズや橋本忍脚本の多視点犯罪劇『七つの弾丸』、夜の人間模様を描いた風俗映画が一部で再評価されてきた。そんな村山新治の回想録が、折よく完成。御年96歳、2018年の映画本における快挙ともいうべき仕上がりだ。

本書は二部構成となっている。監督業を引退したのち退屈しのぎに書き始めた修行時代の自伝が第一部。小規模な記録映画を経て、新興企業・東映の助監督に。作品ごとの濃淡ある思い出――撮影が延びに延び、半年以上かかった今井正監督の戦争映画『ひめゆりの塔』の舞台裏はすさまじく、火薬の爆破をバックにした集合写真を見開きで使うセンスもすばらしい。

村山が「その時代」と書く1956年、共産党員であったことから東映を退社するはめになり、契約者に。そこから時代をさかのぼる。兄・英治の影響で共産党に入り、映画界へと進んだ青春が回顧される。

小出しにされてきた政治思想や労働組合のエピソードが、ここに結実。「来なかったのは軍艦だけ」という東宝争議に代表されるように、戦後の日本映画界は左翼とともにあった――そのことが実感できる。やがて共産党から離れ、“イデオロギー=宗教”という価値観を持った村山は、アルチザンの道を歩む。

自伝のあとは、後輩たちとの座談会。『仁義なき戦い』の深作欣二、『Wの悲劇』の澤井信一郎――村山組に参加した東映育ちの監督と往時を語る。読んだばかりの私史が、別アングルから巧みに補足・検証されるのだからたまらない。

これらは、かつて『映画芸術』に掲載されたもの。党派性やベストテンからのアニメ排除で物議を醸す同誌だが、ことベテラン映画人をめぐる記事に関しては比類なき存在である(最新の463号では東映の労働争議で映画から外された異才・小松範任の追悼特集を40ページにわたって掲載)。

「自作を語る」と題した第二部のインタビューは、みずから執筆した第一部に比べると、ややあっさり。それでも東映リアリズム路線の内幕や撮影所の変遷は興味深く、「子供番組をつくるのは、面白くはないよ」といったストレートな発言も過去が美談として消費されやすい現在、かえって新鮮である。

また、本書は兄弟4人が映画関係者という村山家の戦後史たる側面もあり、甥が代表を務める新宿書房から出版された。フィルモグラフィー、図版、年譜、映画評・関連記事一覧……充実した資料が豊かな回想録を引き立てる。

さらに――上野発ではないが、電車の中で読み返そうとカバーを外したら、心にくいサプライズが待っていた。どこまでも丹念で見事な一冊だ。
この記事の中でご紹介した本
村山新治、上野発五時三五分    私が関わった映画、その時代/新宿書房
村山新治、上野発五時三五分 私が関わった映画、その時代
著 者:村山 新治
編集者:村山 正実
出版社:新宿書房
以下のオンライン書店でご購入できます
「村山新治、上野発五時三五分 私が関わった映画、その時代」出版社のホームページはこちら
このエントリーをはてなブックマークに追加
高鳥 都 氏の関連記事
読書人紙面掲載 書評のその他の記事
読書人紙面掲載 書評をもっと見る >
芸術・娯楽 > 映画 > 映画論関連記事
映画論の関連記事をもっと見る >