韓国 古い町の路地を歩く 書評|ハン・ピルォン(三一書房)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年7月21日 / 新聞掲載日:2018年7月20日(第3248号)

韓国 古い町の路地を歩く 書評
韓国の歴史都市の魅力 
そこから世界の様々な都市との相違を見る

韓国 古い町の路地を歩く
著 者:ハン・ピルォン
出版社:三一書房
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韓国観光公社発表の2017年の韓国への日本人渡航者は約231万人である。毎月20万人近い日本人が韓国を訪れている計算となる。その内、どれだけの人がソウル以外の都市を訪れただろう。評者は2009年から2年半のソウル留学をしたが、当時はまだスマートフォンが普及していなかったこともあり、ホームシックになると旅に出て淋しさと向き合った。そして訪れた地方都市では、しばしばどこか懐かしい、まるで祖父母の故郷に来ているような感覚を得たものだった。

本書は、建築士であり都市研究者でもある韓国人の著者が、韓国の9つの歴史都市を紹介するものである。歴史都市とは、前近代に形成され、近代を経て現代まで進化してきた、今も現役の政治・産業・居住の空間のことである。具体的には、軍事都市だった統営トンヨン、産業都市として形成された江景カンギョン、その他は行政都市として出発し、現代都市としてもポテンシャルが大きい密陽ミリャン春川チュンチョン全州チョンジュ、千年以上も行政の中心であった安東アンドン羅州ナジュ、商業都市として名を広めた安城アンソン、城壁に囲まれた忠州チュンジュの9つである。

本書が単なるガイドブックを超えるのは、都市の現在の様子を記述するだけではなく、前近代から近代、そして現在へと「重層する時間の薄皮」を一枚一枚丁寧にはがしながら、一見すると雑然とした歴史都市の魅力を存分に引き出しているところにある。その過程では日本の植民地支配が与えた都市空間の変容も浮き彫りとなる。近代になると日本式の住宅が立ち並び、伝統的な韓国の住宅様式である韓屋ハノクの進化は途切れてしまう。密陽の三門洞サンムンドンで見られる日本式住宅や、安城にある門間棟とつらなる2階建ての日本式母屋、江景の店舗兼居住空間であった日本式の長屋はその代表例である。また、統営の太平洞テピョンドン聖堂はかつての忠武チュンムカトリック教会で、それは植民地期に東本願寺だった施設の内部を教会として改修したものであった。忠州の郷庁(地方官である守令を諮問、補佐した自治機関)は1905年に忠州郵便局に、社稷壇(土地と穀物の神に祈りを捧げる場所)は1923年に忠州神社となった。全州では1894年の東学農民運動で農民軍に占拠され攻防が繰り広げられたシンボルとも言える城壁が植民地期に撤去され、羅州の城壁も撤去されて羅州警察署となった。韓国の都市について知ることは、日本の過去の歴史を知ることでもある。評者が、かつて地方都市を歩きながら、まるで祖父母の故郷に来たような感覚を得たのは、そのためだった。今日、近代に作られた日本式の建物には韓国の人たちが住み、増改築され、表札や看板も様変わりしているものの、町の佇まいや風景といった明文化が難しいところに日韓の歴史の名残が感じられる。

もう一点、本書の卓越したところを挙げると、韓国の歴史都市について、日本や中国、さらにはヨーロッパの都市と比較・検討して、その独自性を認め価値を評価しているところである。評者は韓国歴史学を専門とするが、長らく韓国の歴史はその自律性や内在的発展性が看過され、西洋史の発展法則を基準にして停滞性が強調されてきた。「著者のことば」を読むと、都市研究においても同様で、かつては西洋的な理論一辺倒の都市計画が主流で、韓国の都市は批判の対象でしかなかったという。しかし著者は、例えば庭に関してヨーロッパのプラザやスクウェアと比較して、韓国の庭が持つ独自の公共空間性を指摘する。そもそも、韓屋は庭を中心に構成されるので、建物の中にすべての空間を詰め込もうとする西洋家屋に比べると空間が開放的であるという。さらに、そうした韓屋の建築様式が、他国ではあまり見られない様々な形態の袋小路を形成したという指摘も興味深い。また、東アジアの歴史都市では、中心的な軸となる南北方向の通りは、王の統治行為としての儀礼の場であり、ヨーロッパのように商業などの日常生活が行われる場ではなかったという比較も面白い。そうして比較・検討すると、韓国や東アジアの都市に備わっていなければならない要素も、インドや中世イスラム圏、ヨーロッパとは異なってくる。韓国の歴史都市を知り、そこから世界の様々な都市との相違を見る切り口は秀逸である。

最後に、一つだけ残念だったことは、原書ではスケッチやカラー写真が126枚も掲載され、理解を深めるのを助けてくれたが、訳書では白黒の84枚に減っていることである。勿論、出版事情が厳しい中で本書が翻訳された意義は大きいが、訪れたことのない場所を理解する上ではカラー写真が持つ偉力を感じずにはいられなかった。(萩原恵美訳)
この記事の中でご紹介した本
韓国 古い町の路地を歩く/三一書房
韓国 古い町の路地を歩く
著 者:ハン・ピルォン
出版社:三一書房
以下のオンライン書店でご購入できます
「韓国 古い町の路地を歩く」出版社のホームページはこちら
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