マンガ文化 55のキーワード 書評|竹内 オサム(ミネルヴァ書房)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
マイページで記事のブックマーク!
ログイン
マイページ登録

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは マイページ

読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年7月19日 / 新聞掲載日:2016年4月1日(第3134号)

今後のマンガ研究の基礎に 
マンガ表現の歴史を多角的に分析した通史的総合研究

マンガ文化 55のキーワード
編集者:竹内 オサム、西原 麻里
出版社:ミネルヴァ書房
このエントリーをはてなブックマークに追加
マンガが子どもや若者だけのものでなくなって既に久しい。それに伴い、マンガの研究書も増えているが、本書を通してそれがもはや一部好事家のものではなく、文学研究と同様に確立した研究ジャンルとなっていることを実感した。

タイトルからするとハウツー的に感じるかもしれないが、本書の魅力はそんなものではない。マンガ文化にまつわる用語や現象55項目を、「(「マンガ」に至る)名称の変遷」「ジャンルの多様性」「作家と制作過程」「テーマと表現」「流通と産業」「読者と社会現象」「規制と事件」「マンガと他のメディアとの相関」など八章に渡って解説しつつ、その全体で現代日本マンガに至るマンガ表現の歴史を多角的に分析した通史的総合研究になっている。

しかも本書は、平易な書き方を心掛けてはいるものの、内容は高度に充実しており、またあくまで研究的姿勢が貫かれている。

かつてマンガ研究は石子順造のそれを除けば、ほとんどは文芸評論や思想研究を主にする著述家が自身の嗜好を込めて手がけた評論や、実作者や元編集者などの関係者による回想的なものだった。あるいはストーリイ作りも含めての漫画の実践的学習に付随して、マンガ史やジャンルを語るものだった。

そうした評論や回想には、各人の熱い思いが込められていて、それなりの魅力があったが、思い入れの強さからの偏向も免れなかった。そのような偏向ありきの姿勢は、良くも悪しくもオタク的価値観の形成に寄与した。

それに対して本書は、オタク的ではない、いやオタク的でもあるのだけれども、それを上回って研究的であろうとする現代のマンガ研究者達の、一種の姿勢宣言として私は読んだ。

膨大な情報を読みやすく整理して詰め込みながら、本書のどの論考も個々の作家論、作品論には深入りしすぎぬように配慮されている。折々に漫画の歴史を塗り替えたような作家や作品は、けっきょくのところ文化史的な見取り図を突き破るものであり、それはまた作家研究、作品研究としてなされるべきなのだろう。

私はオタク気質の人間なので、幾人かの著者は明らかに自分と体験的、世代的思い入れを共有している筈なのに(それは抑制された筆の下からも垣間見える)、それらを十全に語ってくれないことへの歯がゆさを感じないでもない。あるいはジャンル分類で「SF」の項目が立たないことへは(やっぱりマイナーなのか)とショックを禁じえなかったりもする(それでも随所にSFマンガへの目配りも利いていて胸を撫で下ろしもしたのだが)。それでも「花の二四年組」や「コマの重層化」「『ガロ』『COM』」など、マンガ史上で重要な人物やテーマや雑誌を押さえ、多くの証言や伝説に耳を傾けながらも、通史の中で的確な距離を保ち、俯瞰的で客観的な正確さを期す努力がなされていることに、深い信頼を覚える。それはひいては、私のようなロートルにとっても未知の過去である赤本漫画や戦前の児童文化統制に関する記述への信頼にもつながっている。

本書は旧来タイプのマンガ評論とは一線を劃した、淡々として抑制の利いた考察のうちに、研究的に漫画を把握することへの凄味の感じられる好著であり、今後のマンガ研究の基礎となるものだろう。
この記事の中でご紹介した本
マンガ文化 55のキーワード/ミネルヴァ書房
マンガ文化 55のキーワード
編集者:竹内 オサム、西原 麻里
出版社:ミネルヴァ書房
以下のオンライン書店でご購入できます
「マンガ文化 55のキーワード」出版社のホームページはこちら
このエントリーをはてなブックマークに追加
長山 靖生 氏の関連記事
竹内 オサム 氏の関連記事
読書人紙面掲載 書評のその他の記事
読書人紙面掲載 書評をもっと見る >
芸術・娯楽 > 漫画関連記事
漫画の関連記事をもっと見る >