ダーウィンの覗き穴 性的器官はいかに進化したか 書評|メノ・スヒルトハウゼン(早川書房)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年7月19日 / 新聞掲載日:2016年4月1日(第3134号)

ダーウィンの覗き穴 性的器官はいかに進化したか 書評
生物界の驚くべき性器 
著者は「生殖器学」の立ち上げを呼びかける

ダーウィンの覗き穴 性的器官はいかに進化したか
著 者:メノ・スヒルトハウゼン
出版社:早川書房
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どうしてこんなおかしな形をしているのか。もう少し大きければよかったのに。思春期まで気になって仕方のない相棒だった。しかし、次第にその存在感は薄れてきた。古来、豊穣や子宝の神として、これが信仰の対象として崇められていることも頭にある。だが長い付き合いで慣れすぎたせいか、中年期の今、意識を向けることはほとんどない。我が性器に。

しかし、本書を読んで俄然、興味が高まった。生物界に驚くべき性器が多々あることを教えられたからだ。小さなムカデにベビー服を着せたかのごとき愛らしい姿のカギムシの一種では、雄が頭部に生えた冠形の付属物に精子を付け、雌の膣に押し込む。雄の頭部が雌の下腹部に接合している様子はスカルファックを思わせる。だが、この虫の行為は快楽プレイではなく生殖行為なのだ。

水中で岩や船に取りついて一生を過ごす甲殻類のフジツボの場合、雄は体長の8倍ものペニスを備える。巨根で有名な、ギリシャ神話に登場するプリアポス神のペニスすらこれと比べれば短小に見えるだろう。カモは鳥類では珍しくペニスを持つという。種によって、その長さは十九センチに達し(オナガガモ)、らせん状で、とげに覆われる。評者の自宅付近を流れる妙正寺川にカモが生息しているが、その姿を見かけるたび、微笑ましく感じていた。しかし、そんなに立派なものを下に隠し持っていると知ると、これまでと同じ見方はできなくなる。

長々と前戯をしたり、ピストン運動をしたりするのは人間くらいもので、動物の交尾は雄と雌が互いに性器を瞬間的に押し当てるだけだろうとわれわれ人間は考えがちだ。しかし、昆虫、クモ、哺乳類の種全体の四分の三で、性行為時にリズミカルな運動が見られるらしい。小型サルのオオガラゴは、射精後、四時間半もピストン運動を続けるというから唖然とする。どんなに情熱的なヒトの雄でもそこまではしない。

本書には、度肝を抜かれるような性器や、みうらじゅんなら「とん交わり」とでも名づけそうな、傍から見ればとんまとしか言いようのない交尾の例が次々と出てくる。ただしこれはビックリ性器大集合的な本ではない。むしろ、なぜこのような多種多様な性器が進化し、それぞれの性器が繁殖にどのように役立っているのかを明らかにするところに力点が置かれている。

性器の進化に大きな役割を果たしているのが、雌による雄の選択、すなわち性淘汰だ。性淘汰の例として、色鮮やかな羽や美しい鳴き声でさえずる複雑なメロディなど、雄の鳥に見られる雌へのアピールがよく取りあげられる。しかし本書が注目するのは交尾に至るまでではなく、真っ最中か交尾後に行われる雌の選択だ。多くの雄にとって(おそらく)容認しがたいことの一つは、雌には交尾後、複数の雄の精子を選別する能力が備わっていることだ(ヒトの雌にもある程度あるらしい)。この能力が「受精における最終決定権をめぐる雌雄間の進化的競争」を促したという。「競争」といっても雄と雌が敵対して競争するのではなく、その実態は、「互いに受け入れつつ忌避するという果てしないダンス」。その結果として、性器の複雑化がもたらされた。

進化生物学者の著者は、「生殖器学」の立ち上げを呼びかける。この新しい学問が将来、性器信仰の中心教義になるかもしれない。(田沢恭子訳)
この記事の中でご紹介した本
ダーウィンの覗き穴 性的器官はいかに進化したか/早川書房
ダーウィンの覗き穴 性的器官はいかに進化したか
著 者:メノ・スヒルトハウゼン
出版社:早川書房
以下のオンライン書店でご購入できます
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