プロヴァンスの村の終焉(上) 書評|ジャン=ピエール・ルゴフ(青灯社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年7月19日 / 新聞掲載日:2016年4月1日(第3134号)

南仏の伝統的村が現代化により解体していく克明な記録

プロヴァンスの村の終焉(上)
著 者:ジャン=ピエール・ルゴフ
出版社:青灯社
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本書はフランスの社会学者、ジャン=ピエール・ルゴフ著『プロヴァンスの村の終焉』ガリマール社(2012)の全訳である。彼が30年来、ヴァカンスなど毎年のように機会あるごとに訪れて来たフランス、プロヴァンスのリュベロン地方の村、カドネが対象になっている。イギリス人のピーター・メイルのエッセイ『プロヴァンスの12ヶ月』で一躍有名になったメネルブから20kmほど南東にあり、『川は呼んでる』というシャンソンで有名なアルプスに水源を持つデュランス川のほとりの村である。

共同体としての村が現代化により伝統的生活様式が解体し、変容していく様子を克明に描いたエッセイである。彼の社会学者的視点に立ちながらも、村人たち中に感情移入しながら、内側からの分析を試みている。

村に関する文書や記録の助けを借りながら、農夫、職人、カフェの主人、消防士、憲兵、主任司祭、小学校の教員、社会教育指導員、村議会議員、村長など村のありたけの関係者と綿密なインタビューをしてまとめることによって、第2次世界大戦後から、特に70年代、80年代から現在までの村の年代記になっている。

中心産業のアーモンド栽培とデュランス川の石を使っての加工、柳の枝で作る籠作りの加工業は急速に衰え、農業人口は減少する。周りから「赤い村」と呼ばれたような村落共同体的コミュニズムは廃れる。68年5月革命世代の申し子が村に移住して来て起きた近代化も過去のものになり、この20年来さらにすべてが変わって来ている。TGV(新幹線)の開通で、多くのツーリストが訪れるようになり、近隣の技術者、パリの管理職、外国人の退職者など、新しいタイプの人々が移住してきて、異種類の住民が共存するようになる。個人主義がはびこり、村の共同体意識は解体する。戦後2000人余だった人口も倍増し、新しい建物が乱立して、村の伝統的な物理的風景も変わってくる。
このように、これは一つの南仏の村の記録を越えていて、著者ルゴフ自身が「カドネは現代フランスの不確かな変遷を凝縮した歴史社会学的現象」と言っているし、原著では『一つのフランスの歴史』のサブタイトルがついているように、カドネで起こった変化を研究することはフランスを襲った根本的変化を探ることになる。多数のフランスの読者から賞賛を得て、プロヴァンス歴史書大賞、ビゲ賞、アジャクシオ文芸大賞、ボルドー市モンテーニュ賞など、多くの賞を獲得したことも納得できる。

フランスの地方の村、リュベロン地方の村は多数訪れているが、カドネ村はまだだ。一昨年訪れたデュランス川の向こう側のシトー派のシルヴィカンヌ修道院からわずか7、8kmなので少し残念である。本書を読んで、フランスの伝統的な村が消滅の危機にある実態がよく理解できた一方、カドネ村を直接訪れた訳者の伊藤直氏もカドネは依然として村であり続けていると感じたと述べているように、特に庶民の交流の場であるカフェなどは未だ健在のように思えるのだが。しかし、カフェに集まる連中は自分たちがかつての村の心情を持った最後の生き残りだという絶望感を持っている。

これがフランス全体を反映していると同時に、世界的なグロバリゼーションの波を受けて、日本の地方の状況を考察するヒントにもなるのではと思う。(伊藤直訳)
この記事の中でご紹介した本
プロヴァンスの村の終焉(上)/青灯社
プロヴァンスの村の終焉(上)
著 者:ジャン=ピエール・ルゴフ
出版社:青灯社
以下のオンライン書店でご購入できます
プロヴァンスの村の終焉(下)/青灯社
プロヴァンスの村の終焉(下)
著 者:ジャン=ピエール・ルゴフ
出版社:青灯社
以下のオンライン書店でご購入できます
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