資本の専制、奴隷の叛逆 書評|廣瀬 純(航思社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年7月22日 / 新聞掲載日:2016年4月8日(第3135号)

資本の専制、奴隷の叛逆 書評
共産主義を構想する可能性 
EU内部における〈南北問題〉を前にして

資本の専制、奴隷の叛逆
著 者:廣瀬 純
出版社:航思社
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二一世紀に入る直前、欧州が〈共産主義以後の希望〉()たりえた瞬間が垣間見えた。だが今日、その可能性を含んだ地政図は書きかえられ、並行してこの可能性も消されようとしている。

資本主義的と形容されうる社会様式の浸透以前にも、統治(者)への叛乱・蜂起はあった。また同様式の浸透が引き起こす強大な軋轢の中からも、同様式への抵抗は生じた。この抵抗を構成する主成分は、同様式浸透以前の叛乱・蜂起と同じく、資本主義の外部――漠然とした言い方だが――から成っていた。資本主義的生産様式が完全に社会を浸透し尽くし、同様式そのものとの間に強大な軋轢を生じさせる外部が消滅したとすれば、そのとき同様式に対する叛乱・蜂起・抵抗・叛逆はどこからどのように起きるのか。外部または軋轢を生じさせない様態に資本主義社会が入ったかにみえる欧州の現在に注視することは、この問いに取組む手がかりとなる。そして八名の論者への廣瀬純氏によるインタビューと論考を収めた本書に、その手がかりを探すことができる。

欧州の現状把握にあたって本書が提示する諸々の論点を横断して浮上してくるのは、言わばEU内部における〈南北問題〉である。債務危機に襲われた「南欧」――特にギリシアとスペイン――における資本主義社会への抵抗の実態が、ギリシアではツィプラスを党首とする急進左派連合シリザ、スペインでは左翼大衆主義政党ポデモスを主として、ギリシア、スペイン、そしてイタリアの論者各々の視点から検討・吟味される。国の内/外や時/空の差異を措けば、広義のコロニー化の運動を通して、資本主義は資本蓄積を展開してきたと言ってよいだろう。この過程は資本主義の外部が消滅したかに見える現在でも、コロニー化の更新された形態において、EU内部で継続されている。EUに内在する南北問題とはこれを指す。だとすれば、先の問いへの手がかりは、資本主義が己の内部にさえその外部を発生させ続けざるをえない運動である限りで、資本主義への叛逆を構成する諸要素もまた資本主義に内在する外部であるという点にある。この諸要素がポスト共産主義的なものではないという意味において、私たちは、資本主義が浸透を開始する〈ふりだし〉地/時点に、資本主義が出現した当の欧州において、戻ったのだとさえ言いうるかもしれない。共産主義〈以後〉ならぬ端的な共産主義――ユーロ・コミュニズムとは異なる――を構想する可能性が再び開かれたのかもしれない、と。

論者たちの議論の内容を少し紹介する。社会運動と制度の緊張を踏まえつつ新自由主義と国民主義の双方を掣肘する移民・難民の市民権奪取(メッザードラ)、資本主義が対他国ならぬ住民との戦争に突入したという認識からの新たな階級構成(ラッザラート)、欧州に内在する南北問題に即しての南北労働者間のエートス比較による相違点(ビフォ)、ギリシアの債務返済中止とユーロ圏離脱を安易に説く者への批判として、ギリシアが交渉すべき〈欧州〉自体の実質的不在(サンチェス=エストップ)、社会運動の水平性と統治面の垂直性とを摺り合わせるための都市生活様式の更新(ネグリとサンチェス=セディージョ)、スペインにおける消防士や警官といった公務員の大衆運動への合流の脱分業論的な把握(フェルナンデス=サバテル)、エコロジーと再生産の視点から運動の制度へのフィードバックを重視する立場(ラマス)、ギリシアにおける貨幣経済をずらす交換に基づく社会的関係の構成(スタヴリデス)などが評子には興味深い。

資本主義を離脱して新たな社会の構成を担う主体の名は「奴隷」か「市民」か、あるいはさらに別の名か。共産主義の別名としてのその運動は、欧州そのものの、第一世界も第二世界もない絶対的〈第三世界〉化を意味するだろう。己が生んだ資本主義の墓穴を堀る力、それが未だ欧州の地層に残されているなら。この欧州に、私たちは呼応できるか。
この記事の中でご紹介した本
資本の専制、奴隷の叛逆/航思社
資本の専制、奴隷の叛逆
著 者:廣瀬 純
出版社:航思社
以下のオンライン書店でご購入できます
「資本の専制、奴隷の叛逆」出版社のホームページはこちら
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