デビュー小説論 新時代を創った作家たち 書評|清水 良典(講談社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年7月22日 / 新聞掲載日:2016年4月8日(第3135号)

デビュー小説論 新時代を創った作家たち 書評
それぞれの文学の原像 
意外性の高い言説が織り込まれ論考を立体的に

デビュー小説論 新時代を創った作家たち
著 者:清水 良典
出版社:講談社
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8人の小説家の出発を徹底的に精査する仕事である。村上龍、村上春樹、高橋源一郎、笙野頼子、山田詠美、多和田葉子、川上弘美、町田康。いずれも現代の日本文学を代表する作家であり、そして語ることが容易ではない対象である。論じる側には相当の覚悟と体力が必要である。それを敢えて成し遂げた本書なのだ。

これはいわゆる攻略本や謎解き本のような独自の解釈を押し出すものではない。また恣意的に座標を作って各作品をマッピングして「客観的に」分類をしたものでもない。初出の雑誌、文学賞の審査委員の選評、受賞直後の合評、作家のインタビューや対談、先行する年譜や論考など現在アクセス可能な資料を徹底的に集め丁寧に読み込んでいく地道な作業が土台となっている。そのうえで同時代の社会の文脈を重ね、それぞれの文学の原像を浮かび上がらせていくのだ。

『限りなく透明に近いブルー』でロックとドラッグの彼方に「透明な視線」で見出した「戦争」、日常を取り囲み侵食するそれが村上龍の作品を紡ぎだす観念装置となったと指摘。村上春樹『風の歌を聴け』では、安らげる日本文学の故郷を持たない「意識的な孤児」としてのスタートを見る。『さようなら、ギャングたち』に悲哀のリリシズムを読み取りながら、高橋源一郎を自我もオリジナリティも空洞であるがゆえに透明なレンズで状況を正確に見る者とする。笙野頼子『極楽』では幻視による現世からの逃走の線と既存の権威のまやかしの糾弾を抽出。『ベッドタイムアイズ』に自覚的な学習者のロジカルな思考を読み、山田詠美の個人こそがモラリストであり優れて政治的だという。多和田葉子『かかとを失くして』からはヨソ者として脱出と逸脱をつづけ、人間界の規範を溶解させる思考実験を切り出す。『神様』のふわりとした存在の淡さ、それは川上弘美自身が幼年期に世界のただ中にエイリアンとして置かれたとき感じた「あわあわ」が原像であるとする。『くっすん大黒』に絶対的なモラル欠損のなかでへらへらしながらNOと叫びつづける姿勢を見出し、だから町田康は「パンク歌手」を名乗り続けたのだとした。

意外性の高い言説が織り込まれ論考を立体的にしているのも本書の魅力。『ブルー』論に石原莞爾『最終戦争論』、『風』論で片岡義男『日本語の外へ』、『極楽』論はバルザック『知られざる傑作』、『ベッド』論に米谷ふみ子『過越しの祭』、『かかと』論に野田米次郎『二重國籍者の詩』、『神様』論に中島敦『山月記』、『大黒』論には『太平記』である。既出の評を手がかりにしたものもあるが、関係資料を丁寧に確認した成果であり、また筆者自身のアーカイブスを掘った賜物である。

なかでも感心させたのが、『ギャングたち』論(収録された8つの論の中で僕個人としては最も面白かったのもこの論であった)。作品中に登場する少年の発言をパスワードとして固有名詞「谷川雁」を呼び出し、松本輝夫『谷川雁 永久工作者の言霊』に収められた詩人の発言を織り込む手際はまさに名人芸である。

「小説をどこまで読みこみ、咀嚼することができるか、さらにその論述をどこまで一個の文芸作品として書くことができるか――、その可能性を、自分の限界まで、私は本書で示したつもりである」これぐらいのことは言ってもいいと思ってあとがきを読んだ。
この記事の中でご紹介した本
デビュー小説論 新時代を創った作家たち/講談社
デビュー小説論 新時代を創った作家たち
著 者:清水 良典
出版社:講談社
以下のオンライン書店でご購入できます
「デビュー小説論 新時代を創った作家たち」出版社のホームページはこちら
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