文芸学講義―文学作品が書かれるまで 書評|小田切 秀雄(菁柿堂)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年7月25日 / 新聞掲載日:2016年4月15日(第3136号)

文芸学講義―文学作品が書かれるまで 書評
豊富な読書体験と長年の批評活動に裏打ちされた実践的な「創作論」

文芸学講義―文学作品が書かれるまで
著 者:小田切 秀雄
出版社:菁柿堂
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この度、法政大学の教え子たちによる集まり「小田切秀雄研究会」の編で刊行された本書は、戦前に『萬葉の伝統』(四一年)を刊行し、戦後は「近代文学」の創立同人の一人として平野謙や本多秋五、埴谷雄高らと共に戦後批評を牽引した小田切秀雄(二〇〇〇年六月、八四歳で死去)の、生前において唯一単行本化されなかった「まとまった論考」である。

本書の基となった論考は、一九八五年三月から一九八八年十二月まで「季刊 国語教育」に『文芸学大概』と題して十六回にわたって連載されたもので、亡くなる一〇年以上前に「完結」しながら単行本化されなかったのは、本書の巻末に「資料」として収録されている「はじめに」を見ると分かる。小田切はこの『文芸学大概』を、「Ⅰ文学の方法と機構」「Ⅱ作者と読者」「Ⅲ文学の様式」「Ⅳ文芸思潮・流派」「Ⅴ芸術諸ジャンルとの関係」「Ⅵ文学と社会」「Ⅶ文学の諸問題」「Ⅷ文芸学史」という八つの項目(観点)から論じる構想を持っていて、全ての項目を書き終わった後に手を入れ、「叢書」のような形で刊行するつもりでいたのではないか、と推測される。本書『文芸学講義――文学作品が書かれるまで』は、この「Ⅰ~Ⅷ」までのうち、執筆が終わっていた最初の項目「Ⅰ文学の方法と機構」の単行本化であり、それはざくっとした言い方をすれば、小説や詩、戯曲などの創作の「原理」(それはまた著者が生涯にわたって関わってきた批評の原理でもあるのだが)を、帯文にあるように『源氏物語』から村上春樹の初期作品までを例に上げ、分析的(科学的)・実証的、かつわかりやすく解き明かしたものである。

本書の特徴は、何よりもその『小田切秀雄全集』(全一九巻 二〇〇〇年刊)に収められた各論考、とりわけ『民主主義文学論』(四八年)や『日本近代文学研究』(五〇年)、『日本近世文学の展望』(五七年)、『作品鑑賞による現代日本文学史』(七〇年)『戦後文学鑑賞』(七一年)、『現代文学史』(上下巻 七五年)、『明治・大正の作家たち』(Ⅰ・Ⅱ 七八年)、『私の見た昭和の思想と文学の五十年』(上下巻 八八年)、『日本文学の百年』(九八年)、等々が伝える豊富な読書体験及び六〇年以上も続いた批評活動に裏打ちされた実践的な「創作論」であり、「文学とは何か」について徹底的に論じた『文学概論』(七二年)の続編だという点にある。言葉を換えれば、著者が生涯にわたって「時代を超え、国境を越える」文学作品と真摯に渡り合い、読書する歓びと文学作品を批評する厳しさを積み重ねた結果が、本書には率直な形で反映しているということである。著者は、「批評」(それは裏返せば「創作の秘密」ということにもなるが)について、次のように言っている。

〈ほんらい批評というものは、その役割、機能のうちの重要な一面として、作品を通して作者の素材のえらび方や、主人公の設定の仕方や、構成・テーマの展開のやり方や、ことばと文体のえらび方、等々、総じて作品制作の内的過程のここの局面にまで立入って具体的に検討する、ということによって文学創造そのものにかかわって行く、というところがなければならぬ。批評が文学プロパーの一部分と見なされるのは、こういう一面があるためにほかならぬ。〉(1章 創作過程はどこまで分析できるか?)

このような著者の批評論は、欧米の表現理論や哲学概念を援用した批評と方法論が突出した現代の創作世界にあって、一見すると「古くさく」感じるかも知れない。しかし、近代批評を確立した小林秀雄に倣って、「批評とは対象を借りておのれを語ること」であるとするならば、小田切秀雄の批評論は批評対象の内的メカニズムにまで立ち入って分析・考察するものであることによって、流行にとらわれがちな現代批評や現代の創作に一石を投じるものになっているのではないか、と思う。

何のために創作(文学・芸術)は在るのか、その存在意義が希薄化しているように見える現代、私たちは本書のような「創作の秘密・批評の原理」を説く書物ともう一度じっくり腰を据えて真摯に向き合う必要があるのではないだろうか。
この記事の中でご紹介した本
文芸学講義―文学作品が書かれるまで/菁柿堂
文芸学講義―文学作品が書かれるまで
著 者:小田切 秀雄
出版社:菁柿堂
「文芸学講義―文学作品が書かれるまで」は以下からご購入できます
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