徳は孤ならず 日本サッカーの育将 今西和男 書評|木村 元彦(集英社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2016年10月14日 / 新聞掲載日:2016年10月14日(第3160号)

徳は孤ならず 日本サッカーの育将 今西和男 書評
サッカーの現場から浮き彫りになる 社会が抱える矛盾や歪みを暴き出す

徳は孤ならず 日本サッカーの育将 今西和男
出版社:集英社
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本書は日本サッカー界で初のGMとなった今西和男をめぐるノンフィクションである。サンフレッチェ広島のGMや日本サッカー協会強化委員会副委員長等を歴任し、W杯フランス大会のアジア予選中、日本サッカー協会のスタッフ会議で当時の加茂周監督を更迭し岡田武史コーチに指揮を執らせるよう進言した張本人といえば年配のサッカーファンは頷くだろうか。選手として第一線で活躍しただけでなく、指導者としても多くの優れた選手を育ててきた日本サッカー界の重鎮の半生に本書は迫っていく。著者木村元彦はそれによって「人を育てることの真髄」を描こうとし、また後に今西が巻き込まれた日本サッカー界のスキャンダルを告発する。

これまで『オシムの言葉』『争うは本意ならねど』といった傑出したスポーツ・ノンフィクションを生み出してきた著者木村元彦の手腕は、本作でも存分に発揮されている。本書の前半部では、今西が何を大切にしながらサッカー選手や指導者を「育てて」きたかが数々のインタビューから明らかとなる。広島での被爆体験によって命は限りあるものだと自覚した今西にとって、選手を上手くする、チームを強くすることと同時に、自分が育てる人々がどのような人間になるかが重要だった。本書では今西の薫陶を受けた元日本代表選手や現役で活躍する監督が数多く登場するが、彼らが一様に語るのは、今西がつねに選手の人生をトータルで考えて指導していたことである。あるメンタルトレーナーは今西に「サッカー人生が終わった後に何もできないとかわいそうじゃからその後の人生にも役に立つようにしてやってつかあさい」と依頼された。選手としてのキャリアが終わった後の長い人生をどのように生きていけるか、そのために今何を指導しなければならないのかを彼は考えていたのである。

今西の足跡と彼によって育まれた人々の活躍を描くこの前半部だけでも、一冊の本として十分な内容だったはずである。だが今西和男の人生が、そしてジャーナリストとしての木村元彦の気概がそれを許さなかった。これまでの著書と同じく、サッカーの現場で浮き彫りになる私たちの社会そのものが抱える矛盾や歪みを、木村は暴き出し告発していく。2007年今西は懇願されFC岐阜のGM、その後社長に就任。勝敗だけではなく地域に貢献するクラブ作りに全力を注いだ。だがその努力は「クラブライセンス」をめぐるJリーグと行政の策略によって見事に裏切られることになる。当事者への聞き取り、機密文書の入手など、真実を明らかにしようとする木村の徹底した取材には感嘆するしかない。理念や理想を誠実に追求しようとする人々を個人的な地位や利権のために利用し使い捨てにする者たち。それを私たちの社会はいつまで見逃し続けるのかと思わずにはいられない。『徳は孤ならず』。この言葉にこそ、希望が託されていると信じたい。
この記事の中でご紹介した本
徳は孤ならず 日本サッカーの育将 今西和男/集英社
徳は孤ならず 日本サッカーの育将 今西和男
著 者:木村 元彦
出版社:集英社
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